事業継承制度

 知人の父親は素晴らしい事業を起こし、成功したが、突然なくなった。しかし会社の運営に忙しくて、自身の資産を持つことには熱心でなかった。それほど会社は繁栄していたし、留保もあった。

 知人は父親ほど事業に対する手腕はなく、父親の突然の死去には悲しむ前に戸惑った。会社をどのように運営するのか。

 しかし会社の現状は極めて優秀で社員も多い。社内留保は30億円もある。父親が社長であったけれど、社員も社長を助け、会社の運営にはそれなりに関わっていた筈だ。

 一般的には何の障害もなさそうに見えるが、そうではなかった。遺産を相続してから10か月以内に相続税を払わなければならないのだ。

 資産は銀行預金とそう大きくない家のみ。自身は親を心の中では頼りにしてきたので、大した預金はない。彼は一人っ子であった。

 自分は父とはもう同居していない。父が残した家を売却し、銀行預金を解約すれば税金は払える。そう簡単に考えたが、それは甘かった。

 父が100%保有していた会社の株式の相続があった。父親はまだ65歳。これほど早く死んでしまうとは本人は全く考えていなかったので、遺産相続のことなどは全く考えていなかった。

 株式の相続はその時価による。30億円の相続税は軽く10億円を超える計算だ。かれは途方に暮れた。そんな金どこから捻出するのか。預金を解約して、父親が住んでいた家を売ってもそんな金はできない。

 仕方なく、銀行から借りた。よく貸してくれる銀行があったものだと思うが、兎に角銀行借り入れで相続税を支払った。

 銀行から金を借りたのだから、返さなければならない。金利も嵩む。会社を売却する手もあったが、自分のこれから生きて行く方途がない。ずるずると会社を経営し続けた。

 そのうちに経営状態も悪化する。銀行は融資を渋るようになってくる。資金繰りが大変になってきた。

 私はこの話を人伝に聞いたのだが、とても興味があった。そこで株式のことに関して財務省に電話を掛けて聞いてみた。電話口に出て来たのは女性担当者。とても冷徹な感じがする。

 「こんな場合はどうすればいいのか」というのが私の質問である。会社の剰余金は税金を支払ったあとに残ったお金。それを相続するのに、相続税を支払わなければならないのは、二重課税で、それに対する救済措置がある筈だというのが、私の理論であった。

 それに対してその担当者は相続税を支払って貰わなければなりませんと言うのみ。「しかしこれは二重課税ではないか」と私は食い下がった。自分のことではないが、とても興味があったからだ。

 そんな問答を30分も続けただろうか、到頭担当者は事業継承制度というのがあると漏らした。それは事業がある一定の条件で継承されるなら、株式の相続があっても相続税は一旦停止するという制度である。

 ネットで調べたら確かにこの制度のことがあった。私の税理士にも聞いてみたのだが、相当前からこの二重課税問題は非難を浴びていて、平成20年を過ぎて、財務省もやっと思い腰を上げて制度を作ったというわけだ。

 二重課税の問題も気になるところだが、一番腹が立ったのは、電話に出た担当者が私の質問に対して誠実な応えをしなかったことだ。事業継承制度があるなら、どうして早く言わないのかと思う。

 彼らは制度を作るがその制度が活用されると税収がその分減少するのを嫌がるのだ。しかしこれは一種の嘘だ。私のように食い下がる人は少ない。相談を受けても知らない振りをするので、事業継承者は税金を支払う。

 こんなことは多い。質問するのは回答するより難しい。それを踏まえ、可笑しいと思えば食い下がらなくてはならない。回答する人が知らないことも多い。何も財務省だけではなく、銀行、警察すべて大組織に働く人は無能で不誠実な者が多い。

 そこで「それで間違いがないですね」と最後に一言付け加えると「ちょっとお待ちください」と、きっちり調べて違う回答をする。世の中が複雑になり過ぎるとこんな現象がそこら中で起こる。困った世の中になったものだ。

酒巻 修平

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