三人の女性

  安友千佳、南田冴、堂島悠乃は高等学校の友達である。それぞれ違う大学に進んだがいまだの交友関係は続いていて、時々こうして会う。

 千佳と冴は結婚していて既に子供もいるが、悠乃はまだ独身を通している。千佳の結婚前の姓は小野寺、冴は三島であった。二人とも恋愛の上結婚した。

 いつもは子供のことに話が及ぶのだが、今日は違った。一つには結婚もしていない悠乃の気持を察したこともあるが、どうも本心から出た会話である。

 千佳の夫の幸三は小さいながらも会社を経営し、暮らし向きは豊かだ。冴の夫は大企業に勤めるサラリーマン。しかしいまだ役職は係長である。悠乃は高校時代から美貌で男子生徒の憧れの的だったが、どういう訳か結婚には縁遠かった。

 話の口火は千佳が切った。どうも夫が浮気をしていると言うのだ。こんなことは他人には言えないが、3人は大の仲良し。心の中に仕舞っておくより話をして何とか解決策でも探そうとしている。

 その日千佳は日本橋に買い物があって出かけた。夫は今日帰りが遅い。夕食は外で食べると言っていたので、自分も久しぶりに外食を楽しもうと日本橋にやってきたのだ。

 買い物を済ませレストランを探しながらぶらぶら歩いていると、向こうから夫がやってくるのが見えた。何と若い女性が夫の腕に捕まって甘えている。もう食事どころではなくなり、夫に後を付けた。

 探偵を雇って事実関係を探るとある日やはり仕事の関係で帰宅が遅くなると言いながら夫はその女性とホテルの部屋に消えたという報告がもたらされた。

 そう言えば最近時々こんなことがある。仕事は忙しいらしく夜遅くの帰宅には慣れていたが、時々出張だと言って一泊することもある。それも土、日曜日に多い。

 まだ夫には自分が浮気のことを知っているとは言っていないが、離婚も視野に入れ考えをまとめなければならない。

 冴の夫にはそんな節は全く感じられない。いつも会社から帰ると家で食事をする。たまには同僚と外で酒くらい飲むこともあっても良いと思うのだが、それもない。

 夫と同期入社の人はすでに課長になっている人も多く、中には次期部長候補も現れた。夫の収入は少なく、子供を良い学校に通わせるために自分が外でアルバイトをしている。

 ボーナスが出ると一泊旅行に行くこともあるが、そんなときでも節約をしながら子供たちを楽しませる。良い夫だとは思うが会社に何かあったら、一番にリストラの対象になるとひやひやの毎日だ。

 この間も同期入社の課長に叱られたとこぼしていた。聞いてみると課長が叱るのも当然である。夫には仕事に対する能力が備わっていない。

 大学こそ出ているが、出身地の名もない大学で、常識的な知識も薄い。むしろ冴が色々と教えてやる。頼りない夫が定時に会社を出て家に帰ってくるのを見るといらいらする。

 二人の愚痴を聞いていた悠乃が中に割って入った。「貴方たち、旦那さんもいて暮らしもできている。それに子供さんの将来も楽しみじゃない。私は学校を出てからボーイフレンドが何人もいたけれどとうとうこの年になるまで求婚もされなかった」

 「会社から帰っても電灯一つ点いていない室内に入る時の寂しさ、虚しさはそんなことを経験した人しか分からないと思うわよ。いいなあ、二人ともちょっと我慢をしたら幸福だとも言えるわ」

 「あなたこそ分からないのよ。自分という妻がありながら若い女性と関係を持たれることがどんなに私を苦しめるか、考えたことある?」

 冴が反論する。「何言っているのよ。そんな浮気など黙って見ているとすぐ止むわよ。だいたいあなたに飽きたから他の人と付き合っているのでしょう。その人ともすぐに飽きるわよ。でも旦那さんを咎めたら駄目よ。そうすると糸の切れた凧のように飛んで行ってしまうもの」

 うちの主人には能力がないから、将来なんの楽しみもない。60歳で定年を迎えてそれからどのように暮らしたら良いのか途方にくれるばかり」

 ―どんな人にも不満があるもの。私はいつも男性にお食事を誘われる。そうして毎日毎日を楽しむのも一生かな。年金はあるし、退職したら何か小さい商売をして日を暮らそうと考えたがそれも上手く行くとは限らないー

 そんなことを考えながら悠乃は二人の会話を遠いところで聞いていた。

酒巻 修平

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