猫の恩返し

 家に猫がいる。元野良猫だったのを我が家で飼うことにしたやつで、名前は「たま」という。こいつは何だか狡賢い。

 最初に見たのは道路に設置された階段の中途であった。隣のおじさんが猫が纏わりついて危ないし、歩きにくいと困っていたので、その猫を見た。そいつは私の足元にもじゃれるし踏んづけそうでこわい。

 子猫だからまだとても小さい。その日はそれで済んだのだが、そのうち庭に入ってくるようになった。にゃあにゃあと鳴きながら何かを要求しているようだ。妻が仕方なく出汁雑魚をやると美味しそうにむしゃむしゃと食べる。

 そんなことが3,4カ月あったんだが、まだ幼いと思っていたそいつが子供を産んだ。さすがに保護者としての義務が目覚めたらしく、6匹の子供をあっちへ持っていったり、また戻して来たり急がしそうに働く。

 だが子猫は1匹死に、また1匹とそのうち全員死んでしまった。それから1,2か月して猫嫌いだった妻が飼いたいと言うようになった。動物病院に連れて行って避妊手術を施して家に連れて帰り、室内にも入れるようになった。それからも雑魚をやったりしていたが、とうとう飼うことに決めた。これが運の尽だった。

 私も可愛がってやったつもりだし、もう少しは懐くと思っていたが、思惑は外れ餌をくれる妻にだけ愛嬌を見せる。

 私が触ろうものなら、すぐに逃げるし、全く可愛くない。折角飼ってやっているのだから、もう少しは慣れれば良いと思うのだが、そいつはつれない。

 息子や娘が家にやってくるといつの間にか姿を消す。飼ってもらうまではあんなに愛嬌の良かったのにこれでは期待外れである。

 それでも少しは慣れたと見えて喉を擦ってやるとゴロゴロと喉をならすので、可愛さ半分憎たらしさ半分。全く狡賢い猫だ。

 朝7時くらいになると2階にある妻の寝室に行くために私ににゃあにゃあと鳴きリビングのドアを開けさせる。階段は1秒もしないくらいで駆け上がり、餌をくれる主人を待ってドアの外で待っているのだ。

 こいつは高い所に登るのが好きで、いつも2m以上もある本箱の上で寝ていたり、1m以上あるスピーカーの上に跳び乗り、ダイニングテーブルは下からではなく、上へ上りまた向こう側に跳び降りる。

 若いから全くすばしっこい。でも私にあまり懐いていないので、私は不満である。懐かれているえええええええええええええええええええええええええええええええええ妻は一日中猫の話しばかり。あんなに猫が嫌いだったのに、もう洗脳されてしまった。

 ある日どこにもいないので探し回ると何と2m以上もある大時計の上に載っていた。どうもその前の小物入れのボックスを足掛かりに跳び乗ったようだ。

 だが乗るときは狭いところを足掛かりにしたが、降りる時にはそこが狭すぎて跳び降りることができない。困り果てているようだ。

 私はしばらく無視しておいた。妻はもちろん下ろせないし、「たま」は困り切っている。命の危険を察したかも知れない。

 日ごろ邪慳にされている私はいい気味だと放置したが悲しそうな声で鳴き続ける。こちらの目を見て哀れを乞う。

 妻には下ろせる能力がないと直感で判断しているようなので、私が頼りだ。10分ほど知らん顔をしていたがあまり可哀想なので、脚立を持ってきて下ろしてやった。その時怖くて私の腕に爪を立て私も危うく脚立から落ちそうになる。

 そうして下ろしてやったら、どこかに姿を消した。もう「たま」のことは忘れ、仕事に戻った。1時間もしただろうか、その「たま」が私の机の上に乗ってきて盛んに私の腕に顔を擦り付けるようになった。

 パソコンのキーボードの端にお尻を付けるものだから仕事にならない。仕方なく脇に退けるがすぐに元に戻ってくる。

 ずっとこちらの顔を見ながら喉をゴロゴロ鳴らしているのも聞こえる。どうも命の恩人に精一杯の愛嬌を振り撒いているようだ。

 しかしこいつは狡賢いやつだ。私も全面的に信頼を寄せていない。そのうち感謝の気持が失せて前のように私を無視する態度を取るかもしれない。どうも猫は御しがたい。

酒巻 修平

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