箱根駅伝予選会

 いよいよ駅伝、マラソンシーズンの幕開けだ。私はこの単純に体を使う競技をこよなく愛して止まない。

 人は稲作が始まらない前は野山に鹿、熊、兎を追い捕獲して食料にしただろう。動物たちは人に狙われたらよっぽど幸運でなければ逃げ切れない。

 人はどんな陸上動物より長く走れるので、熊や鹿が短距離では逃げきれても、後からその逃げた痕跡を追いかけて最後には捕まえられる。

 その運動能力をスポーツに生かしたのが、駅伝やマラソンである。人が生来持つ運動能力を各人が競い合うのは見ていてスリル満点だ。

 人の体は鍛えればそれに呼応して発達する。筋肉は使えば使うほど増強されるし、心肺機能は向上するだろう。ただ使い過ぎると疲労がやってくるし、それによる骨折も起こる。

 競技本番は一発勝負だが、選手はそれまでその一発勝負で良い成績を収める準備のために体を絶えず鍛え、日常生活を犠牲にしてまで節制に励んでいる。それは観客には分からない影の部分だ。

 練習のし過ぎで本番では疲労が抜け切れていないかも知れないし、反対に練習不足は体の機能の鍛錬不足で良好な成績を得ることができない。

 鍛える体の部位は筋肉と心肺その他の内臓に亘る。筋肉を鍛えるためにジムでのトレーニングだけをやっていても内臓は鍛えられない。必要で効率の良いとレーニンはやはり実地に走り込むことによって得られる。

 我々観客は選手の成績だけを見るのではなく、陰に隠れた練習も想像すると競技を見る楽しみが倍化する。

 この間箱根駅伝の予選会を見た。一番のハイライトは何と言っても結果発表のシーンだろう。一位や二位のチームの表情は見ていてもスリルがない。自分たちは当然通過すると考えているので表情に自信が溢れている。

それより当落ぎりぎりのチームが心配そうに発表を待っている表情、雰囲気は見ている方でも興味津々だ。そんな期待を持つのは選手たちには気の毒だが、観客なんてそんなものだ。

8位、9位。これらのチームはホットして喜びを体一杯に表す。手を取り合ってやったという自信はなかなかの見ものだ。さて残りは1チームだけだ。

当選が決まっていないチームは神にも祈る思いでいるだろう。発表する担当の人はそれを見越して、じらすように故意に発表を遅らせる。

「10位」とここで発表を途切れさせる。そして大学名が発表されると合格したチームは小躍りして喜ぶが、落選したチームは地獄に落ちたような表情になって、そのうち涙にくれる。

テレビカメラは意地悪くそんな悲喜こもごもの選手や監督の表情を執拗に追う。その場面がまた観客にはたまらない。

この予選会で個人一位や二位は大体アフリカ系の学生で、彼らは疲れ知らずに走り日本人選手を寄せ付けない。これではマラソンで日本人が優勝できないのは当然だと思える。

第一走るフォームが違う。もともと筋肉が走るようにできているのか、あるいは筋肉の付き方であのようなフォームになるのか、軽く走ってなお早い。

どうしてそうなるのか考えるのも観客の特権だ。私は先ず体全体の動かし方を観察する。人の体は腰を境に上半身と下半身に分けられる。大切なのは上半身の動かし方だろう。

人の体は上半身の方が重い。頭の重量がその大きな部分を占めるからだ。それに内臓や骨の重量も計算に入れなければならない。物を動かすにはその重心の当りに力を掛けそこから力を伝えて行く方が効率は良い。

走るのは体を前へ進ませる行動である。すると上半身の重心から前に進ませる力を伝えていけば効率が良いと考えられる。

上半身の重心は胸板の一番厚い真ん中にある。すると力はそこから発せられるべきだ。アフリカの選手は大体そうしている。しかし日本の選手はどうもそうではない。脚を重視する。

体は上半身だけではないから下半身も効率良く動かさなければならないので、脚に注意を行くには当然だ。だが下半身の重心は脚にはない。大殿筋の少し下辺りである。

だが人が歩くときは脚を使う。だから選手も脚を鍛えることに神経を集中する。だがこれは効率が悪い。尻と脚の付け目辺りから力を伝達するのが一番効率的だ。

これもアフリカの選手はやっている。もともと筋肉の付き方や強さで自然にそうなっているのだろうが、日本選手も訓練でそのような走り方もできるはずだ。

証拠にそのような走り方をしていないアフリカの選手は却って日本人選手より遅い場合がある。だから理想的な走り方は胸板の一番厚い所の中心と尻の少し下の両方に力を入れるべきだ。

だが上半身の方が下半身より重い。だから力の7割くらいは上半身の方、後の力は下半身に入れて走るべきなのだ。相撲の白鵬が強いのはこれを実行しているからだ。

心肺機能についても考察は重要だ。それは鍛えることで強化される。だがそれだけだろうか。心肺は上半身にあり、上半身が揺れると心肺はその機能の幾分かが削がれる。

短距離ではその障害の影響は少ないだろうが、長距離になると影響は顕著に表れる。仮に1%違っても結果には大きな違いが出て来る。時間5分でマラソンを走るとすると1%は1分以上の差になる。

競技の解説を聞いていても上半身の使い方を説明されていることがほぼない。脚が動かなくなったとか、前半に脚を使い過ぎたとか脚に集中して解説している。これは上半身の使い方を競技者も監督もコーチも軽視している証拠だ。

日本人同士の遅い早いを観察していると自然に上半身を効率よく動かしている選手が必ず早い。あるいは私の見方が悪いのか、すでにそんなことは了解済であるかも知れない。

酒巻 修平

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