離婚業

 これも取引しているダカインという会社をオレゴンに訪問したときのことだ。会社にとても美しい人がいた。

 夕食に誘われてアメリカンレストランに行ったとき、その人の話が出た。名前は忘れてしまったが、仮にビアンカとしておこう。夕食に誘ったダカインNo.2の人も変わった考えの持ち主だったが、その人もビアンカの人生の生き方については非難的であった。

 ビアンカはもうすぐ会社を辞めて結婚するらしい。目出度いことだが、会社としては困るから何となく非難口調になるのかと思っていた。しかし彼の話したことは私の想像を超えていた。それこそ想定外だった。

 ビアンカの結婚はこれで5回目らしい。結婚しては2,3年で離婚をするのだ。結婚相手はリッチな人ばかり。ビアンカは男を誑かし、その気にさせる天才だそうだ。ビアンカの目で見られると俺も心が揺らぐと言う。

 リッチな人と結婚すれば、経済的には少なくても幸せな筈だ。アメリカ人は金が第一だといつも言っているので、私はそう思った。ところがビアンカのやり口は私の想像を超えていた。

 最初から2.3年経ったら離婚することを前提に結婚をする。勿論結婚相手には自分の計画を漏らさない。2,3年は結婚生活を満喫し、毎日高級レストランでディナーを摂り、海外、国内旅行に出かける。

 しかし子供は作らない。あとあとの計画に支障をきたす。良いドレスを着て、ネイルサロン、エステ、結婚した人も最初は何でも許してやる。ここで夫が許すと言ったのはアメリカでは夫の収入は全て夫が管理するからだ。

 そんな甘い生活、Dolce Vitaも一年経ち、二年経てば夫も美しい妻の姿態や振舞いに飽きてくる。これが男の問題点だ。それでもビアンカはもっとドレスを欲しい、あのレストランに行きたい。今度はオーロラを見たい。京都に行きたいとねだり続ける。

 そんなビアンカの要求に嫌気が差してくるが、ビアンカは追及の手を休めない。嫌よこのレストラン、シェフが代わって味が落ちたの。ウエイターが気に食わないと連れて行ってもらったレストランを非難して違うところへ行く。そこも不満でもう一軒に行ってようやくビアンカは矛を収める。

 そんなことが度重なると夫は帰宅が遅くなる。するとビアンカは早く帰ってきて欲しいと電話をする。その電話がまた夫の帰宅を遅くさせる。とうとう夫は離婚を決意するという段取りだ。

 ビアンカとしてはDolce Vitaを楽しんだし、最初から仕組んだ筋書きだから離婚を言い出されても痛くも痒くもない。しかし表面上はこの世の終わりのように泣く。号泣ではなく、夫を恨めしそうに、愛を込めた目をしてすすり泣く。

 夫の決意は揺らぎ、一度は自分の気持ちを収める。しかし一週間もたたないうちにまたあのレストランに連れて行け、ここは嫌だ。京都ではなく、カイロに行きたいが始まる。

 二度目の離婚の気持ちを夫は絶対曲げまいと今度は強い決意をする。ビアンカは仕方なしに、泣く泣く離婚に同意する。

 ここでビアンカの弁護士の登場だ。弁護士は夫が如何に酷かったかを並べ立て、大枚の慰謝料を要求する。あるいは夫が浮気でもしていてくれればこんな良いことはない。

 実はビアンカと弁護士は結婚前に打合せをしていて、時系列的に行動指針をビアンカに与えていた。即ち弁護士もぐるなのだ。だから夫の酷かったときの写真を取ってあり、会話は全て録音されている。夫に勝ち目はない。

 ビアンカは少なくても1億円。できれば10億円ほど稼ぎたい。だから弁護士には金持ちの男性の掘り出しの協力を要請しているし、自分も毎日素敵な服装で、リッチな男が出入りするような場所に出没する。勿論エステやジム通いは欠かさない。本を読み、大学の講義を聞きに行って教養を高める。

 4回の離婚でビアンカが得た収入は20億円を下らない。年を取り定年退職するころには一生食べてゆくだけの金が手元に残っている。因みに弁護士は離婚業専門である。

こんな仕事がアメリカでは増えている。女性が美しく生まれれば母親もこのような仕事に就くように娘に勧めることもあるそうだ。日本に上陸しなければいいと思っているのは私だけだろうか。

酒巻 修平

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