イタリア人との馬鹿騒ぎ - 座敷でカンツォーネ

この話があった当時我が社はイタリアからバッグを大量に買っていた。毎年二回くらい、バッグのメーカーが日本に来て新作の展示会をする。

 我が社が取引をしているメーカーも何社か展示会に出品していて、彼らと私は顔見知りだ。折角日本にきたのだからと毎回誰かを夕食に招く。

 彼らの詳しい商売のシステムは知らないが、親戚か近しい友達が何人か団体で展示会にやってくる。その中の一人がゴッドファザーと呼ばれ、全員のビジネスを束ねるリーダーだ。

 映画にも出て来たゴッドファザーとは団体のリーダーのことらしい。一番の年長で団体の人は全て彼の指示に従う。

 だからバッグで取引のある一人を夕食に招くと、必ずゴッドファザーに連れられた団体がやってくる。勿論それで良いかと聞かれるが、一人だけしか夕食に呼ばないとは言えない。

 その日も取引先の若い社長に声を掛けると、5人だけれど良いかと尋ねられた。仕方がないので、OKと言うと待ち合わせ場所に団体がぞろぞろとやってきた。

 大した取引でもないのに、招待したのを後悔したが後の祭り。あまり料金が高くない居酒屋に連れていった。そこは一人でくると落ち着いて飲めるので時々利用していた馴染みの店だ。

 そこは一杯になっても20人くらいしか入らない小さな店で、その日は他のお客さんが、3,4人しかいなかった。テーブル席は4人しか掛けられないので、奥の座敷に入った。

 私が何を飲むかと訊くと皆酒だという。暫くして酒が来て、料理も少しずつ運ばれてくる。私がどうぞ召し上がってくれと言うとそれではということで、酒盛りが始まった。

 料理はあっという間に平らげられ、次は何もしますかと店の人に注文を聞かれるが、面倒なので、何でもいいから見繕いで出してくれと答える。そこは料理が割りと早く出てくる店なのだが、出てくるさきから、平らげてゆく。

 食べては飲み飲んでは食べ、イタリア人の胃袋は底なしのようだ。酒がある程度回ると例のゴッドファザーが「カンツォーネ」とか言った。そうすると一人の若者がカンツォーネを歌い出した。

 あまり上手ではないが、顔を赤くして歌っている。それを見ていた他の者も歌い出す。勿論コーラスなんてできない。全員が斉唱だが、そのうちは私も加わって6人が斉唱する。

 曲はただ一曲。たしか「Ti voglio tanto bene」とか言っていたと思うが、全員で歌うとまた酒を飲み、料理を食べる。酒を飲み料理を食べると先ほどとは違う若い人がまた歌い出す。同じ曲だ。また斉唱、6人で歌うものだから煩い。

 そのころには店は満杯になっていた。私は他のお客さんに迷惑ではないかとはらはらしていたが、他のお客さんは話しをするには我々の歌が煩く手どうしようもない。何事かとこちらの様子を見に来る。

 それを見たゴッドファザーが手招きをして一緒に歌おうと言うので、私が通訳をした。何、知れている。その程度のイタリア語は簡単だ。ただ「insieme」、一緒にだ。

 一人の客が来るとあとからあとから客が様子を見に来てまた、insiemeと誘われる。到頭店の客全員が座敷に集まって、「Ti voglio tanto bene」を斉唱する。客はそんな歌など知らないものだから、適当に歌う。

 到頭大酒盛りになってしまった。イタリア人はそれでも飽き足らず、酒、料理と言っている。そのころには日本語の酒、料理という言葉を覚えてしまった。酒、料理を繰り返すうちに店の人がもう冷蔵庫は空っぽで売るものがないと困ってしまった。私は「questo ristorante, Cucina,finito」とこの店の料理は売り切れと言うより仕方がなかった。

 多分このイタリア語は間違っている。女性品詞と男性品詞が入り混じっていておかしいが、知ったことではない。私も酔っぱらっている。でも彼らは理解したらしい。

 結局その「Ti voglio tanto bene」を30回くらい歌った。店の冷蔵庫は空になり店はその日の売上が大きかった。私は相当勘定を払わされたが、今でも思い出す。充分元を取っている。

 イタリア人は面白い。彼らは帰国をして、今度は酒巻としか取引をしないと言い出した。私はそんなに買えるものかと思った。

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酒巻 修平

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