アメリカ人とのばか騒ぎ - ウイスコンシン

ある商品を仕入れたいと思って調べてみるとメーカーはウイスコンシンというアメリカの田舎にあった。

 約束をしてメーカーの所在地まで行こうと最寄りの比較的大きな飛行場から16人乗りの定期便のセスナに乗った。

 その日は生憎の天候で、飛行機は離陸前から風に煽られ、揺れている。離陸してからはその揺れが大きくなり、飛行機は木の葉のように揉まれた。その当時私はまだ若くて恐怖感もなかったので、平然としていたが、回りの乗客は大騒ぎをしている。

 操縦士は客席から見え、客室乗務員のおっさんも平気な顔をしていたが、他の乗客は大騒ぎをしている。

 しかし飛行機は何事もなく、小さな飛行場に着いたので、乗客は拍手をしている。機長は大威張りの顔をして、乗客に挨拶して、全員がタラップを降りた。

 そこは飛行場と言っても、大きな原っぱに短い滑走路が一本引いてあるだけの粗末な作りだ。

 タラップを降りた人は私以外全員が地元の人でその人たちと同数の人が迎えにきて、車を待たしていた。

 私だけがアジア人だから一面識もないメーカーの社長は私をすぐ探し当て、握手する手を差し伸べながら車を指差した。大粒の雨が降っていたので、私たちは大急ぎで車に乗った。

 先ず家に行くという。着くと立派な家で、暖炉があるし、リビングは大きい。家族も私を歓迎して迎え入れてくれた。

 私は早く製品を見たい。そう言うと「すまん、今日はこれからライオンズクラブの会合があるので、そちらへ行かなければならない。あんたも来てくれ」と言う

 そんな面倒なことをしたくなかったが、そこは人情。私はまた車に乗せられライオンズクラブの会合に出た。

 会長か誰かが何か言っている。私は英語が余り聞き取れなかったが、辛抱して最後まで何人かの演説を聞いた。

 そのうち私を招いた人が全員に「この人はこの村で初めての日本人だ。何かしゃべってもらおう」と私を困らせる。

 そんな演説の用意はしていないし、だいたい日本人はそんなことには不慣れだ。私が躊躇していると全員が拍手をして早く、早くと私を責め立てる。

 何を話して良いか途方に暮れていたが、仕方ないので、「初めての日本人」だから私が言うことは日本のことであれば何でもいいと腹を括った。

 「私は東京と言う人口1000万人以上の大都会から来ました」と話し始めた。皆はおおとかニューヨークと一緒だとか、この人たちはニューヨークにも行ったことがないらしい。

 気を強くした私は東京のことを話し終えると、日本の田舎のことを話そうとしたが、方針を変えて、冗談を面白おかしく話してやろうと策を練った。

 「皆さんは日本の田舎のことをご存知ですか」「いや、全く知識がありません」とか「どんなところですか」と方々から声が掛かる。

 私は悪いやつだから「日本の田舎は皆さまお聞きになったことがあると思いますが、武士や忍者が今でもいるのです。東京は文化的な大都市ですが、田舎とは文化に大きな差があります。武士はちょんまげ(なんと英語で言ってか忘れた)を結い、刀を差して無礼な町民がいると刀で切り殺す。忍者は準備をしないで、いきなり木の枝にジャンプすることができるし、見えないくらい速く走る」

 そんな嘘を平然と付きながら、話を終えようとしたが、質問があちこちから飛ぶ。「武士はGeorge Ironより強いのか」。私はそんな人の名前を聞いたことがないが、多分プロレスラーくらいに想像したので、「Of course」と適当なことを言っておく。

 全員が日本に興味を持って、商談は上手く運び取引条件は「Try my best」と私が一番望んでいるのに決定した。

 このことを例の我が社のエージェントのブライアンに話した。彼は「わはは、それから」とか「You are bad」とか、また涙を流して大笑いした。。

 日本に帰ってからtoeic950点の友達に「He is fromWisconsin」とはどういう意味だと試しに聞いてみた。彼は「それは単に私はウイスコンシン出身だという意味だろう」と言ったがこれは間違いだ。例えウイスコンシンから来ていなくても出身でもなくても、「彼は田舎者だ」という意味なのを知らない。Toeicなどというのは英語を解する上では何の意味もないことがこれで分かった。

これには後日譚がある。さるホテルのエレベーターにアメリカから来た客人と乗った。そのときにウイスコンシンの話が出て、というよりは私が出して、私はHe is from Wisconsin と言ってアメリカの田舎を馬鹿にした。

 そのとき前にいたプロレスラーのように巨大な男が後ろを振り返って「What?

I am from there」と言うではないか。顔はとても怖かった。それからその巨大男は笑い、You are bad.と言って、握手した。アメリカ人は面白い。

酒巻 修平

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