アメリカ人とのばか騒ぎ - 毎日5回妻を抱くトラビス

相当前の話だ。アメリカ人は日本や日本の習慣を知らないし、一般の人はアメリカのことがまるで分からないころの話だ。

 我が社のバイヤーエージェントの元雇い主が日本にやってきた。そこからも結構な量の商品を輸入していたので、様子を見に日本へ来たという訳だ。

 「朋あり遠方より来るまた楽しからずや」ということで、高級天ぷらを御馳走し、当時盛んだったキャバレーを見せてやろうと誘った。

 名前はもう忘れたし、つぶれてしまったので今はないが、新宿歌舞伎町に2軒大きなキャバレーが向かい合わせに並んでいた。

 エレベーターボーイが面白いやつで、武だったかタモリだったかはそのエレベーターボーイをやっていたという記憶がある。エレベーターの中は男ばっかりだ。全員お互いが助平そうに見える気まずさをエレベーターボーイが緩和してくれる。たまには面白い話をしてくれるので、頭も相当いいのだろう。

 ホールに着くとそこは別世界で美しいドレスを着たホステスが1000人くらいいる。当時は景気も良くて満席だ。少し待たないと席に案内されない。

 そのうちボーイが来て我々を席に誘導する。すぐにおしぼりが配られて、顔を拭いているとホステスがやってくる。

 指名制度というのがあってホステスを指名してやるとホステスに幾ばくかの払い戻しがあるので、サービスが格段に良くなる。最初に来たホステス二人を指名する。

 途端に笑顔が拡大されて、何くれとなく、我々に気を使ってくれるようになった。ビールが運ばれ、ホステスにも注いでやるとさあお遊びの開始だ。

 客のTravis Hunter「トラビス ハンター」は風習が分からず、まごまごしている。私は彼に救いの手を差し伸べない。これがこつだ。トラビスはだんだんと退屈してくる。

 時間を見計らってもういいだろうと思えるころに、彼を話題にした話を始める。退屈していたトラビスは熱心に話を聞く。私は適宜通訳をしてやる。ホステス達は英語ができないし、トラビスは日本語ができない。私だけが両方からのただ一人の頼りだ。

 ホステスに「この人はトラビスと言うんだ。発音してみな」と言うと私を真似て「トラビス」と発音する。英語にはなっていないが、客のトラビスは自分のことだと理解した。

 ホステスに「何かこの人に質問をしてやってくれ」と頼むと、食事にはどんなものを食べているのか」とか「家は広いのか」などと聞く。

 ホステスもトラビスも私の通訳を当てにしているし、信用している。何せ私は商売上絶対嘘を付かないという主義なので、トラビスは私の言葉を真剣に聞き、答える。

 「大体ステーキが多いかな。家はこのくらいだ。トイレは3つある」などと言っているので、私は通訳をする。

 そのうち一人のホステスが恥ずかしそうな顔をしながら、「あのお、奥様とは週にどのくらいあれをするのですか」とやっとキャバレーっぽい話が始まった。

私はできるだけ英語の発音をぼやかし「How many times do you go to men’s room a day?」、「毎日何回くらいトイレに行くのか」と訳す。このとき「men’s」と「a day」の部分をホステスにも分かるように大きく発音をする。

 この辺りが難しい。楽しむには努力が必要だ。トレビスは戸惑っている。どうしてそんな質問を女性がするのだろうか理解できないのだ。でも仕方なく「maybe 5 or 6 times」と言うので、私は「5 or 6 times a day?」とやっぱり女性にも聞き取れる発音をする。

 「おい、5,6回するらしいぞ。すごいなアメリカ人は」などと適当にホステスに通訳をする。ホステスは顔を赤らげて聞いている。「アメリカ人の人って、そんなになさるの」と言う。

 トラビスは何だかどうもおかしいと思うがどこがおかしいのか分からない。で、ホステスに次の質問はと水を向けると、ホステスは「じゃ、一週間に35回以上ね。奥様疲れないのかしら」が「Doesn’t your wife get tired?」となる。

ここも「wife」の発音を強調する。訳の分からないタラビスは「Why?」と言うので、私はホステスに「なぜ妻がつかれるの」と言っているよ。いいことをしているのだから疲れる筈がないという意味だろう。

 そのうちにトラビスも馬鹿ではないので、私がいい加減な通訳というか故意に意味をねじ曲げて両方をはめていると気が付いてきた。そしてついに「I don’t believe you」、お前は信じられないと言い出した。私は「You, foolish」と言ってそこから大笑い。

 アメリカ人は遊べる。そのことをもっと誇張して例のアメリカのバイヤー、ブライアンに話してやるとまた涙を流して「ひい、ひいい」と笑った。

酒巻 修平

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