アメリカ人とのばか騒ぎ - Oh, 16

ハリウッドのホラー映画で16サイズのデブだけをターゲットにして殺す殺人鬼の話があった。

 その男は女性を誘拐して殺すのを快楽にしているのだが、16サイズと思しき女性を探しておき、機を見て車の中に連れ込む。顔をどのように見られない策を弄していたかは覚えていない。

 女の腹をこぶしで殴り気絶させてから、殺す前に上着のサイズタグを確認するのだ。それが15サイズであったりすると、その女を馬鹿にするように車から蹴落とす。そんなやせた女に興味がないという訳だ。

 なかなか16サイズの女が見つからない。16サイズはどんな寸法の計り方か知らないけれど相当大きなサイズだ。ひょっとしたら最大のサイズかもしれないが、行けば分かるが、アメリカには巨漢の女性がうようよいる。見るも気の毒なのだが、ダイエットはしないからそうなる。その人たちは16以上かも知れない。

 だから16サイズは最大だとは思わないのだが、あるいは既製服としての最大サイズかも知れない。

 太った女を見つけるとその殺人鬼の顔が大写しになり、にんまりと気持ち悪い顔が強調される。男は満足げだ。しかしそれが15サイズだと分かれば先ほどの気持ち悪い笑みは女を蔑む顔に変わる。

 そんな演技を殺人鬼役の男優は好演していた。私は殺すところよりそんな男の顔を見たいがためにこの映画をビデオで何度も見た。

 非常な苦労をして16サイズを見つけた時が一種のクライマックスなのだ。その殺人鬼は気持ち悪くにんまりと笑みを浮かべ、「Oh, sixteen」と快哉を叫ぶ。

 どこで殺し、その後どのように死体を始末してかは覚えていない。私が興味のあるのはその科白「Oh, sixteen」の部分なのだ。

 その映画はよく売れた映画でアメリカ人は誰もが知っていた。私は演技が上手いことは前に話したが、この「Oh, sixteen」と言う科白を例の笑い虫のブライアンにしてやるのが楽しみなのだ。

 ブライアンに「16 killer」という映画を知っているかとジャブを入れる。ブライアンが知っていなければ面白さは半減以下になるのだが、幸いブライアンは知っていた。

 「苦労して16サイズの女を捕まえた時のあの殺人鬼の顔を覚えているかい」と聞くと「あれは気持ち悪かったな」と答える。この時点でもあまりシャープではないブライアンは私の話の意図が分からない。

 「あの殺人鬼、16サイズを見つけた時、Oh, sixteen と独り言を言うじゃないか。あそこ、怖いよね」と普通に話す。ブライアンは「あんなやつ本当にいたら嫌だな」とかまだ分からない。

 このシャープでないところがみそだ。絶えず私が馬鹿ストーリをしてやっているのに、まだ分からない。私としてはもしかしたらそのOh, sixteenの科白を私が真似るのかとは察して欲しくない。

 「ねえ、ブライアン、あいつこんな感じで言わなかったか」とブライアンの反応を見ながら「Oh, sixteen」と顔の演技と共に科白を述べる。

 科白は低く気持ちが悪い声で言わなければならない。演技前私は何十回と練習をしているから、なかなか上手い。「Oh」は感動的に満足感を表現しなければならない。

 目は見開き、「Oh,」は中音から発声し出して、少し上がり、それからやや下がる。次は「sixteen」だ。殺人鬼は感極まっている。腹から声を出し、とぎれとぎれに思わずこのセリフが口を付くのだ。感動で一杯だ。

 ブライアンは「Oh,」が始まると私の顔を見る。しかし最初の「Oh, sixteen」では笑いはなく、私の顔を見ているだけだ。

 勿論ブライアンは私に再演を求める。その時は感動的に私を見ながら「ヒイーー、ああ、ははは、   ヒイイイー」ともう涙が止まらない。言葉が途切れているところは私の科白を聞いているところだ。何度も再演をリクエストするが、その時はおしまいと宣言する。

 しかしディナーの席でもう一度やろうと私は心に決めている。ワインが運ばれ、飲もうとするときにやるのだ。ブライアンは笑い過ぎて、ワインをこぼし、周囲の相客の顰蹙を買っている。洋服も濡れた。

 馬鹿ブライアン、最近連絡がないな。私は女子社員からもリクエストがあるので、演技に更に磨きをかけているので、再演要求には答える積りだ。

酒巻

—–

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です