アメリカ人とのばか騒ぎ - 敬虔なクリスチャン?

会社が初めて輸入を自社でやることになった。アイテムは「Body filler」と言って、事故車のボディの凹んだところを埋める修理用資材である。

 アメリカには「buyers’ guide」という冊子があってその中から選んだ。ファックスでメーカーに売ってくれと言うとまだ信用状態が分からないから、先に金を払えと要求してきた。

 相手の銀行口座に即刻ドルを振り込んだ。今なら前払いなどしないのだが、当時会社はまだ2,3人でやっていて、前払いのリスクを考える余裕がなかった。

 商品はすぐ船積みされて到着した。倉庫もなかったので、会社の事務所の前の道路において前以て注文をくれていたお客さんにすぐ発送した。商品は案外評判が良くてすぐに再注文がきた。

 それでまた注文をして相手からの支払い要求が来る前に送金した。注文はじゃんじゃんくる。それからは注文書をファックスするのは面倒なので注文書なしで、送金をした。相手は私を変わった男だと思ったらしい。

 取引がコンスタントになると相手の副社長が来日して話し合おうと言って来たので、当時羽田だった国債空港にその副社長を迎えに行った。背の高いハンサムな人で敬虔なクリスチャンと言う。

 その男をホテルに送り、夕方6時に迎えに行く。ディナーを一緒にしようと誘った。相手はこの申し出を断らない。礼を失するという考え方から来ている。

 6時に迎えに行ってホテルのロビーでビジネストークをまずしようというので、椅子に座って話した。喫茶店など無駄な経費の掛かるところは使わない。私も相当けちらしい。

 相手が何か言い始める前に「My business conditions are to try my best and pay when your products arrive safe here」だと宣言した。相手とは何度も取引をしているので、こちらの誠意は充分に伝わっている。少し考えて「OK」と了承して。ビジネストークは終わった。数量規定もない。支払いは商品が無事ついてから行うというこちらに一方的な提案を彼は飲んだ。

 

 ずっと注文書などファックスしないで、金だけを振り込んでそれを注文代わりにしたので、信用しないと度量の大きさを計られてしまう。受けざるを得ない条件の提示をして、相手は受けた。この辺がアメリカ人と取引をするコツだ。

 さて何が食べたいかと訊くとステーキと言う。アメリカには食文化がないので、ステーキしかない。私はかなり上目線で話すようになった。

 アメリカでは味わえないようなステーキを食べさせると相手はその味の良さに驚いた。それからまだ時間があるかと訊くとあると言うので、キャバレーに連れていった。アメリカ人を接待しようという積りではなく、若い私は自分が楽しみたいだけだ。それを悟られないようにアメリカ男を騙して連れていった。

 彼が住んでいるところにはキャバレーなどないし、ニューヨークではあるかも知れないがそんなところへは足がすくんで行けない。豪華絢爛たるキャバレーへ行くなどは彼には初めての経験だ。

 当時のキャバレーは面白かったし、込んでいた。入場すると彼は「Waoh」と小さな叫び声をあげた。これは面白いことになりそうだと私のおちょくり心に火が付いた。

 一人に一人ずつホステスが付いて、さあ酒盛りの始まりだ。その前に「You are

a serious Christian. Are you1?」、あなたは敬虔なクリスチャンですよねと念をおしておく。敬虔なクリスチャンはキャバレーなどにも来てはいけないのだが、それは外国のこと、大目に見るというシチュエーションにした。これは作戦の一環だ。

 ビールが運ばれてくる。ホステスにこの人は酒豪だからじゃんじゃんビールを勧めろと耳打ちをした。山海の珍味とまではいかないがおつまみもある。彼はよく飲んでよく話した。アルコールで気が大きくなったのだろう、ちょっとした猥談も始めた。

 お前の好みの女性はどれだと訊いてその女性を指名しておく。チップを沢山やって、他のテーブルから呼び出しが掛かってもすぐに戻ってきてねと頼んでおく。多分明日も来るからと言うと、先ず頼み事を聞いてくれる。

ラストまで居て、外に出るとまだ町はネオンが消えていない。コーヒーでも飲もうと誘う。そこからが楽しい。「I am very sorry you are a serious Christian.

She wanted to come with you to your room. You enchanted her.」。あんたは経験なクリスチャンで残念だ。あんたはハンサムで彼女はあんたに惹かれたそうだ。あんたの部屋に行きたかったそうだよ」と適当なことを言う。敬虔なクリスチャンじゃなければ彼女はあんたの部屋に行きたかったが、私が止めたということにする。彼は意外だという顔をしたが、嬉しそうだった。敬虔なクリスチャンなのは嘘だと確信した。

 明くる日はどこで食事をしたか覚えていない。食事が終わると私は「You may be tired. I will take you to your hotel」、昨日の今日で疲れているだろう。ホテルまで送って行くよと心にもないことを言う。

 彼はそれに対してもじもじしている。「Maybe, Mr.Sakamaki」。私をMrを付けて話し掛ける。もう魂胆は見え見えだ。それで私が「What?」と誘いを掛けると「Mr.Sakamaki, you bought me much drink last evening. Maybe today is my turn」酒巻さん、昨日は随分御馳走になった。今日はお返しをしなければと言うではないか。私の作戦にはまった。

 私は素知らぬ顔で「It’s OK. My pleasure」いいよ。喜んでくれただけで私は嬉しいというような意味のことを返す。彼はこれでは困るのだ。じゃお前のおごりで行こうてなことを言ってもらいたい。

 彼は考えた。(これはどのように言えば私にお返しをした形にすればいいのか考えているのだ。真意はあのキャバレーに行って彼女とまた会いたいのだ。男は皆同じだ。

 「No, no, This is my territory. You are a guest from far place. Do you know

Chinese saying?」そんなこと言わなくてもいいよ。ここは私の町で、朋有り遠方より来るという中国のことわざを知らないのかとはぐらかす。彼は尚も諦めきれない。

 「It’s too much of you. I want to do something」。それはいけないよ。私にもお返しをさせて欲しいと何とかキャバレーに持ち込みたい。それで「Ok, let’s go to drink alcohol at a nice bar on top of a hotel」じゃ、ホテルの最上階にあるバーへ行こうと誘う。それでお返しができるが、キャバレーと比べると料金は安い。今で言うショットバーだ。

 彼は黙ってしまった。でもそれでは劇は進行しない。仕方なく「Be honest. You sound something out of your mind」正直になれよ。どうも心にもないことを話しているように聞こえるぞと私は到頭彼の本音を聞き出しに掛かった。でも本心は分かっている。昨日のホステスと会いたいのだ

 この辺の私の英語は覚束ないが、通じた。彼は嬉しそうな顔をして、「Maybe, Mr.Sakamaki, how about going back to last night’s place」。昨日のところへ行くのはどうかなと私の顔色を見い見い提案した。どうもMaybeを多用する。

 仕方がないなと言う顔をしながら昨日のキャバレーに行った。席に付いて確かめると昨日の彼女は出勤しているらしい。しかしそう簡単には事を運ぶと面白くない。彼女をなかなか指名しないでおく。でもアメリカ男は気が気じゃない。

 もうこうなったら仕方がない。「Open your mind, my friend」もう言ってしまえよと促すと「I should be honest with myself, now」。もうはっきり言わなければ仕方がないなという。「I think I have to talk to her. It is sorry for her last night. If she wants, she and I can have nice time to drink sake or something」。彼女と話さなければならない。昨日失礼した.何なら彼女とアルコールでも一緒に飲んでもいいとまだ本心を明かさない。本当は彼女を連れてホテルへ帰って、いいことをしたいのだ。

 昨日の彼女はまだ席へ呼んでいない。しかし近くを通るごとにこちらを見ている。指名して欲しいのだろう。

 頃を見計らって彼女を席に呼んで、アメリカ男の心の中を彼女に告げた。彼女は「いやだわ。何とか断ってよ」と言う。最初から分かっていたのだが、私はアメリカ男の信仰心を確かめただけだ。

 私はアメリカ男に「彼女は今夜先約があるらしい。相談があるので友達にあうらしい。でも昨夜は残念だったとまだ言っているよ。次に日本に来た時は是非ご一緒したい」と彼女の言葉を適当に作って、アメリカ男の気持ちを壊さないよう気を使った。

 このアメリカ男が敬虔なクリスチャンであるというのは似非だった。敬虔なクリスチャンだと言ったので日本の夏の夜は夢に終わったと彼は信じた。

しかしそれから彼とは無二の親友のようになった。後でアメリカに行った時に本当の話をすると彼は「You are really bad」と笑いながら言った。何故アメリカ人はそんなに扱い易いのか。新しい国の純粋な気持ちをまだ持っているのだろう。それに引き換え私は彼が言うように本当に悪い男だ。

酒巻 修平

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