イタリア人とのばか騒ぎ - 喧嘩

イタリア人との喧嘩は面白い。私がミラノへ仕入れに行ったときの話だ。ある日ホテルの従業員と喧嘩をした。

 確か私の外出中に伝言がある筈なのでそれをホテルのフロント係の男に聞いた。彼はそんなものないと言う。もう一度調べようともしない。

 そこで私は腹が立ち(若かったから)「もう一度調べろ」と依頼したが、そんなものは来ていないとチェックもしないでけんもほろろに言った。

 そこで私は腹が立ち、その男にお前は不親切だ。客にはもっと親切にしなければならないのに、その態度は何だというところから喧嘩がスタートした。

 最初あちらもこちらも英語で喧嘩をしていたが、だんだん英語ではまだろっこしくなってきて、向こうはイタリア語、私は日本語になった。

 こうなるともう何を言っているのかお互いに理解できない。ただ怒鳴り合うという行為が続いた。顔を真っ赤にして、ただ大きい声で怒鳴る。

 そんなことを2,3分もやっていただろうか、私も面倒になってくるし、相手もそうらしい。突然怒鳴るのを止めて、プイと顔を逸らして、右左に別れて喧嘩は終了。

 冷静になって考えると、もしかすると私の勘違いではないかと思ってきた。それで明くる日その男のところ行って「俺が悪かった。謝るよ」と言うと相手も謝り出した

 それが大げさなのだ。「俺は世界一馬鹿な男だ。生きている意味がない」。そんなものだから私も「いやいや俺の方こそきつく言って済まなかった」と言う。

 イタリア男は涙を流すように「ああ、俺は何と詰まらない男だ。キリスト様にも申し訳ない」とか、私は聞いているのが面倒になった。

 しかしその従業員には反省がないらしく、前と同様な態度で接する。勿論私だけではなく、誰にでも同じだが、言葉ばっかりで申し訳ないという言葉はどこから出て来たか、全く不明だ。

 そんなことがあって、ホテルを引き払うときまた私が「いや、世話になったな。お陰で面白い滞在をさせてもらったよ」とお世辞を言うと、

 「お前が去ってしまうと俺の人生の彩がなくなる。もう少しいることはできないのか」とまた例の調子だ。私は経験済みだから適当に打っちゃっておいた。

 ところでイタリアではアメリカのようにチップの制度がきっちりとしていない。朝食が宿泊料に含まれている場合が多く、貧相なものだ。それでも1週間も滞在したからチップを置いていこうと思った。

 イタリア人や韓国人はそんなことはしない。チップは必要とされていないので、チップは置かない。それでいいのだが、私は日本人だし、チップ大好き家系の出なので、20ドル換算くらいのチップを置いた。

 しかしどのテーブルにもチップなど見えない。荷物を纏めて、フロントで宿泊代の清算をしている時に朝食を用意していたウエイター2,3人集まって何か言っている。

 「Giapponese」と言いながら、私のやったチップを全員で分けている。どの国の人からもチップをもらっていないので、誰がこんなチップを置いていったのかという会話のようだ。私が置いて行ったことを知っているウエイターが日本人だと説明しているようで、私は良いことをしたのかと少し嬉しくなった。

 それで気を良くした私は例のフロントマンにまたイタリアに来る時はここに泊まるよとお世辞を言いながら、ホテルを後にした。

 その後そのホテルには何度も泊ったが、例の男は相変わらず大げさな言い方が好きだった。「酒巻さん。私はあなたとまた会って生き返った気がする」。勝手に生き返ってくれと私は真剣に取り合わなかった。

酒巻 修平

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