アメリカ人とのばか騒ぎ - ハンサムな男

事故車修理用の資材を輸入していたころの話だ。アメリカの仕入先の営業担当者が派遣されて日本にやってきた。彼は自分は仕事もできるし、ハンサムだと思っていた。男の名前は確かジャンセンだった。

 確かにハンサムなのだが、彼のライバル会社には更にハンサムな営業マンがいた。私はその会社とも取引をしていて、何度かその担当者とも会ったのだが、例のエイズで亡くなったロックハドソンに似た良い男だ。名前はナッシュだ。

 ジャンセンも大切な人だから、私は彼を食事に連れて行き、その後酒も奢った。酒癖があまり良くない人のようで、最初は私のことを悪く言う。

 「お前は会社を経営しているから、俺を接待してこんな良いところに連れてこられる。狡い」とか言うのだ。接待して高級なところで食事をして酒を奢っているのに、文句を言われては割りが合わない。

 しかしにやにや笑って聞いている。こんな男はもっと面白い裏話や自分の本当の気持ちを吐露するものだ。それを期待して馬鹿らしさを我慢していた。

 酒を更に勧めると断らない。アメリカ人の酔っ払いは少ないので、私は何か冗談を仕掛けてやろうと手ぐすねを引いて待っていた。

 彼はひとりごとなのか、私に聞かせるためなのか、ナッシュのことを話し出した。彼はそのナッシュの方が自分より更にハンサムだと認め、羨んでいる。

 悪い私は「これは面白いことになりそうだな」と酒を飲みながら彼の次の言葉を待った。

 「あいつは自分のことをハンサムだと思っている。鼻もちならないやつだ」。自分もハンサムだと思っているのにそれを棚に上げてナッシュの悪口を言う。

 私は来た来たと思い、彼を煽る。「ナッシュはそんなにハンサムかなあ。私にはそうは見えないよ」などと一度は否定する。この辺のやり取りがちょっと難しい。面白い話を聞くには努力も大切なのだ。

 実は私は酒豪一家の出だ。祖父も母も酒豪で、一日1升5合は酒を飲んで、それが元で命を失くした。私はそんな反面教師を見習って飲酒量はほどほどにしているが、相当強い。今まで二日酔いなどはしたことがない。私はこのジャンセンより酒が強いとみた。

 私は彼に酒を更に勧めながら「そんなに彼は偉そうにしているのか。あんたよりハンサムなのか」と追い打ちを掛ける。実はこのジャンセンは誰もハンサムだと言わないが、ナッシュはハンサムで有名なのだ。

 酒を飲みに行ってもデパートへ買い物に訪れても、ナッシュに女性はちやほやされ、女は皆近寄ってくる。確かにジャンセンよりは相当ハンサムだ。知っていながら、私は彼の口から言わせたい。

 「じゃ、女性は放っておかないでしょう」「それはそうだが嫌味な男なのだ」そんな会話をしているが、ナッシュはさらっとして嫌味なところがない。それがまたもてる要素なのだ。

 「嫌味な男なのか。それはいただけないな」「大したこともない癖に、自分をハンサムだと思うところが気に食わない」。ナッシュは背も高い。185㎝くらいありそうだ。アメリカ女は誘われれば誰でも付いて行く。私はそれも知っているが、知らない振りをしながら、

 「じゃ、彼は女に不自由しないだろう。羨ましいな」。これも誘い水だ。私はアメリカ女に興味がない。日本女性のように感度が良くない。アメリカ男が気の毒なのだ。

 「何を、あいつはブスにしかもてない。俺の彼女の方がいいよ」。そうでもないと思うのだが、否定しないで、もう少し楽しませてもらう。「でも何人も美人の彼女がいるようだよ。私は紹介してもらったが、あまりに美人で吃驚した」

 2,3度しか会っていないのに彼女を紹介してもらったと嘘を言うが、ジャンセンは酒でこの矛盾に気が付かない。「彼女に会ったとき、私はくらくら来たよ」

 「そうかなあ。お前は俺の彼女に会ったことがあるか。良い女だよ」。私は会ったことがある。ブスだ。「俺はあのケイティを見るとそれだけで興奮する」

 そうかなあ。ジャンセンは女を見る目がないのかなと考えながら、奥の手をぼちぼち出す頃合いだと思った。「気を付けろよ。ナッシュはケイティにも目を付けているよ。一度、もうデートをしたらしい。噂だけどね」

 ナッシュがブスなケイティとデートをする訳がない。しかしそう言うとジャンセンは「ふざけやがって。もう許せない。あいつがハンサムなのを認めるとしても俺の彼女にまでちょっかいを出しやがって」

 私はもういい、このジャンセンは単なる嫉妬男で仕事もできない。あまり面白くなかった。酒をぼちぼち切り上げようと考えた。

酒巻 修平

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