英会話教室の勧誘員にいじめられている

会社に優秀な若い営業マンがいた。その彼が憂鬱な表情をして、私のところに相談にきた。よっぽど困ったことが起こったのか、「実は」と切り出した。ちょうど手が混んだ仕事をしていたので、後にして欲しいと言おうとしたが、彼の真剣な顔を見るとそうも知っておれない気がした。

 彼は話しが上手い方ではない。あまり要領を得ない話の中から趣旨を纏めると、英会話教室からの勧誘がしつこくて、それに自分を馬鹿にするとのことだった。今も電話を切らずに相手を待たせているらしい。

 気が弱い彼はノイローゼ気味だ。どんなような勧誘をするのか、最近は悪質なものも多いので、社員が困っているのを看過することができない。私が代わってその勧誘の電話を聞くことにした。

 「すみません、電話を代わりました。私どもの社員にどのようなご用でしょうか」と切り出すと、その相手はちょっと戸惑ったようだった。戸惑いながらも、要件を話し出したので私は黙って聞いていた。

 言いたいことは今時アメリカと取引している会社の営業マンが英語も話せないようじゃ時代に遅れる。ついては短期間で英会話が習得できるコースがある。現在はキャンペーン中だから入会金も半額でいい。入らないかという単純な話だった。

 それでは何も余計なことを言わず、要件を丁寧に説明すれはいいのにと思いながら、こんな勧誘をさせる会社はどうも悪質とまではいかないが、ある程度いかがわしいのではないかと憶測した。

 教室の内容を何とか探り出す手はないものかと考えて、「と言うことはあなたは英会話ができると言うことですか」と訊いてみた。彼が英語を話せるならまともな教室かなとも思ったので、取り敢えずそんな風に話してみた。

「勿論ですよ」。彼は自慢たらしく答えた。しかしどうもその言い方が気に食わない。実は彼は英語など話せないのではないかと読んだ。日本人はどうも英会話が苦手だ。その日本人が勿論英語を話せるということ自体が嘘っぽい。

 「ではエッフェル塔と東京タワーはどちらが背が高い」と言うのはどのように言えばいいのでしょう。話してみてくれませんか」、そう試してみた。参考までに「エッフェル塔」というのが英語では「エッフェル」などと発音しないのを知っていた。でも発音などどうでもいい。文章自身は簡単なので、話せるなら別に「エッフェル」と発音しても良いと思った。

 「いや、先輩から話して下さいよ」と自分が話すのを回避する。やっぱり話せないのだなと推測はもう確信に近くなった。それでももう電話をしょっちゅう掛けてきてうちの営業マンを困らせるのは御免蒙りたい。懲らしめておかなくてはならない。それで「Which is taller, Eiffell or Tokyo tower」と英語っぽく、なるだけ流暢に話す努力をした。それから「私から話しましたよ。今度はあなたの番です。見本を示して下さい」と迫ると彼は怒り出した。

 「何だよ、英語を話せるだけでそんなに威張るな。こいつ」とか言っている。私は馬鹿らしくて電話を切った。そうすると彼はまた折り返し先ほどの我が社の営業マンに電話をしてきて、「あいつは誰だ。生意気なやつだ。虫唾が走る」など罵詈雑言を吐いたらしい。

 私は暫く笑いが収まらなかった。英語くらい話せなければ時代遅れだと言っていた男が全く英語を話せない。我が社の営業マンも溜飲を下げた。

 こんなこともあった。今度は英語を少しできる人を出してくれという要望だ。私が出ると「あなたは英語ができるのか。では ~と英語で話せ」と言う。簡単な文章だった。面倒なので、いつものような適当な英語で話した。

 すると彼は「あなたの文法はおかしい。それではアメリカでちゃんとしたビジネスができないではないか」と言う。私の英語が下手だと言いたいのだろう。要らぬお世話だ。それに彼はアメリカから電話を掛けていることを装っているが、どうも電話の音声を聞く限り、日本国内からのようだ。いかがわしい。

 この英会話教室も頂けない。彼のなまりは完全なアジア人のもので、「君、英語の発音を勉強し直した方がいいよ。それでは英会話中級の営業ができないな」、「You carry strange accent. Your call is from somewhere in Japan. Is it?」

 彼はそうではない、カリフォルニアのサンディエゴから掛けていると強弁しながら、電話をなかなか切らない。しかし私の英語が分かるらしいので、多少はできるのだろう。少なくても英語ができる人を営業マンとして採用するからには、法外な講習料を払わせると思われる。

 私の英語はビジネスとしては通用するが、正式なものではない。彼が私の文法がおかしいと言ったのは首肯できるが、と言って彼の英語の発音も聞き苦しい。もう電話を切ろうとしたが、彼はまだ電話口にしがみついている。

 仕方がないので、「じゃ、君の傍のアメリカ人に電話を代わってくれ。そのアメリカ人と話す。カリフォルニアから掛けているのだろう」。そう言うと何の返答もなく、ガチャンと電話を切った。

酒巻 修平

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