アメリカ人とのばか騒ぎ - スパームも食べた

ダカインというブランドの今の輸入販売代理店はどこかがやっているかは知らないけれで、私の会社がやっていたころのことだ。営業部長は仕事をできるが、日常生活ではどこか的外れのところがあった人だった、

メーカーのナンバー2のビルという人が日本に出張にやってきた。朋あり遠方より来るということで、すしバーに連れて行って上げた。昔のアメリカ人は寿司など食えなかったけれど、そのころはちょっとしたブームになっていて、彼らは好んで食べた。

ビルはコントローラーの職にあり、頭も良くて私は好きだった。だから心を込めて接待をした。彼は彼女を同伴して来ていて、彼女ともども寿司屋に行った。

その時はその人たちと私の3人だけで、アメリカ人たちは勝手が分からないものだから、私が注文するものと同じものを食べた。生牡蠣から初めて、白身、貝、中トロなど定番のものを注文して、酒もかなり飲んだ。

そのうち、握りに飽きて、刺身を食べだした。タコは銚子のもので、とても美味しそうだった。ビルたちに食べるかと聞くとトライすると言う。サイコロカットにしてもらって食べた。ビルたちも初めて食べたが想像しているより美味しいと言う。

私は調子に乗り、アメリカにはまだ食文化が発達していない。だから美味しいものも食べ損ねる。そう言うと彼らも納得して、お前の言う通りだから、お前の注文するものは何でも食べると覚悟を決めた。

そこで、白子は大丈夫かと聞くと、ビルはそれは何だと説明を求めた。そこで私は魚のスパーム「sperm」だと意地悪げに宣言するように言ってやった。どうせ食べるのを躊躇するだろうとの考えがあってのことだ。

しかし案に相違して、食べると言う。ビルの彼女はアメリカ女性の割には可愛らしくて、好感が持てた。どこかの航空会社のスッチーをしているとのこと。その彼女にあなたも食べるかと聞くと食べると言う。

日本人には白子は珍味だが、アメリカ人にはちょっと抵抗があるかも知れない。私が3人分を注文すると、綺麗な小鉢に入れられて、目の前に置かれた。先ず私が食べ始めるとアメリカ人たちもそれに倣った。

3人ともぺろっと食べてお互いに顔を見合わせる。スパームは精子という意味だから、アメリカ人には初めての経験だろうと思われる。私が美味しかったかと尋ねると「very good」と二人は口を揃えて、白子の美味さを褒めた。

さてあくる日、昨日のお返しにと今度は自分たちが奢りたいと言う。このビルは少し変わったところのある男で、こういうときには会社の金を使わない。使っても経費で落とせる筈だが、彼自身の方針でそんなことはしない。

で、自分たちは東京は不案内だから、そちらでリコメンドして欲しいと願う。私は自分で選ぶのを遠慮して、営業部長に一任した。彼は有名なもつ焼き屋を指定した。青山にある高いがあまり美味しくもないミーハーが行く店だ。

それでも彼の意思を尊重したら、彼はその店に予約を入れた。最後の4人分が開いていると勿体を付けられたが、そこに向かった。営業部長はミーハーな男だから、予約が幸運にも取れたことを喜んだ。

さて食事が始まった。ハツ、タン、レバーなどアメリカ人には荷が重いようなメニューが並ぶ。これは何だといちいち説明を求めるので、それも営業部長に任せた。ハツは「hearts」でタンは「tongue」だなどと説明している。

それから「白」「コブクロ」と進んでいった。私は大丈夫かなと思ったが、彼らは案外なんでもOKのようだ。営業部長がそんな彼らの平気な態度に驚いている。「前にも食べたことがあるのですか」と尋ねると「いや、初めてですよ」と答える。

営業部長はそんな彼らの物おじしない態度に驚いて、ビルの彼女に「初めてにしては勇気がありますね」と言うと彼女は昨日のことを思い出して「私は昨夜スパームを食べたからもう慣れている」とにこやかに答えた。

栄養部長の男はジョークが分からない男で、「えっ、スパームを食べた?」と何だか勘違いしているようだ。ビルもこの営業部長の真面目さ加減ととんちんかん加減を知っているものだから、にやにや笑っている。

しかし彼女は意味が分からない。再度「スパームを食べたからもう怖いものはない」と平然としている。ビルと私はこのときすでに営業部長の誤解とそれをまだ分かっていない彼女の会話のいきさつを見守っていた。

とんちんかんの営業部長はあらぬことを彼女に言った、「ビルのスパームを昨夜飲んだのですか」。彼女はこの言葉を聞いてやっと営業部長が勘違いしているのを理解した。暫くの沈黙の後、3人は爆笑した。

私は黙っていようと思ったが、更なる笑いを取るために「おい部長、彼女が食べたのはビルのではなく、魚のスパームだよ。白子だよ」と種明かしをすると、部長は「そうなんですか。私はてっきりビルのスパームを彼女が飲んだのかと思いました」と何でもないことのように言った。

それからアメリカに帰ったビルはそのエピソードを誰からなく話すと皆「It is very funny story」と日本の滞在を羨ましがったという。それにしてもこの営業部長が自分の誤解が恥ずかしくなかったのには驚いた。

酒巻 修平

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