声楽練習日誌 3 - 終わり -

私の声楽の練習は大学の合唱団に入部してからのことと言って良い。ただ合唱は歌う全員の声やハーモニーを考えてのことなので、一人で歌う声楽とは自ずと目的が違う。

 そんな声楽の目的を果たすために先ず私がやったことは合唱を通じて身に付いた歌い方の癖を修正することから始まった。この癖を完全に直すのに私は20年の歳月を要した。

  大阪での先生はバリトンであったので、テノールとは違った。勿論基本は同じなのだが、目的とする声が少し違う。この違いが発生技法に微妙な影響を及ぼす。バリトンでは暖かな大きさのある声を出したいが、テノールではクリアーで輝きのある声が要求される。

 私は最初からプロになるつもりがなかったので、若いころはそんなに練習に真剣ではなかった。やっているときは熱心でも継続しない。それでも止めないで断続的に先生に付いて習ったりしたが、一番大切な30~40歳にかけてのころに真剣にならなかったことが後から考えると悔やまれる。

 多分テノールの歌手は50歳ころにピークを迎えると思われるが、私が本当に真剣に発声と向き合ったのはこのころになってからだった。それから15年くらいは先生に付いて真剣に練習に励んだが、ある程度の歳になってからの練習は若いときと比べて効率が悪い。

 それでも40歳を過ぎたころからは感性だけではなく、発声技法を考えて歌うことに心がけた。中には非常に優秀な感性を持っている人がいるが、感性だけでは到達する高さに制限がある。

 やはり技法を考え、それで感性をさらに磨く態度がないと高みには登れない。これを技法はメトードというらしいが、往年の有名歌手はこの練習を基本にして修練した。

 人の体は骨と肉とからできている。骨は肉より硬く従って骨に響かせると輝いた声を得られる。日本の歌手はどうも口の中に響かせる人が多いようだが、口は肉でできているので、響きが悪い。勿論間接的には骨にも響くが効率が悪い。

 声は頭蓋骨、それも後頭部に響かせるように歌うことが大切だと発見した。この点バリトンとテノールとは響かせるところが少し違うように思われる。私はバリトンのことは素人だから詳しくはないが、多分体のもう少し下の方の骨に響かせるのが良いのだと思う。

 人の頭の上の方は骨が多い。それにテノールの真骨頂は輝く声である。その目的を達成するには頭の上の方に響きを集中させるに越したことはない。後頭部、頭頂、副鼻腔などが響きの元になるだろう。

 しかしながら肩、肺の骨なども副次的に響かせなければならないが、あくまで副次的である。ただ響く箇所が多いほど奥深い声が得られる。

 声には息の音が混じってはならない。息の音は雑音であり、クリアーさを失わせる元だ。だから声と息は分離させなければならない。これが難しい。

 如何に響きを効率的に得るかを考えるとそこにはブレスの重要さに行き当たる。喉に力が入るのはブレスが悪いからだ。人の体の筋肉は相互に関連し、連続しているので、あるところに力が入るとその影響が違うところにも出る。

 声帯や仮声帯に余計な力が加わらないように、下腹に力を入れるよう指導する先生もいるが、それは一つの方法であろうが、全てではない。息は肺の後ろにも入れるのが良い。呼吸は鼻で行わなければならない。

 なおテノールではF#から上の声を重視する。普通ではこの高い音域の音は出ない。どうしてこの高い音が出るのかの解明は完全ではないが、声帯が緊張し、なお柔らかいことが求められる。

このようにして響きのある声が出るとその声は10000人の観客を収容できるような大ホールの隅々まで行きわたる。近くで聞いていると立派な声だが、遠くに届かない声を近鳴りと言い、頭に充分響いていないことが原因である。

終わり

酒巻 修平

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