もうおばあちゃんの目は見えなくなりました

 私は母方の祖母と住んでいた。そのおばあちゃんはきつい人で、猫と私の頭をいつも煙管の頭で叩いていた。私は猫とは違って反抗心があるので、いつかは仕返しをしてやろうと思っていた。

 ある日おばあちゃんが昼寝をした。チャンス到来と思った私は糊でおばあちゃんの目を覆い驚かしてやろうと一計を案じた。昔の糊は今のもののように接着性が高くないので、すぐに剥がれるのでおばあちゃんの目が駄目になる心配はなかった。

 それは夏の暑い日だった。私は団扇で体を扇ぎながら、おばあちゃんが完全に寝入るのを待っていた。もう良いかと思って近づくとまたもそもそ動いて寝てはいない。どうも老人はすぐ寝ないと不満だったが、根気よく待った。

 そうこうしているうちに自分も眠くなってきたが、ここは辛抱のしどころ。眠いのを我慢するのは辛かったが、何とか耐えた。おばあちゃんは左を横にして横になっているが、顔が畳にくっ付いて片方の目が隠れている。

 高々目に糊を塗るのもなかなか難しいものだと思ったが、好機はそんなに簡単にやってこない。両方の目に糊を塗らなければ意味がない。しかしいつもおばあちゃんの目は畳に向いている。

 仕方がないので、上の方で鈴を鳴らすとおばあちゃんは目を覚ましてしまった。それでも目はとろんとしていて、また眠った。そのうち鼾が聞こえて来たので、チャンスと思ったが目は片側しか見えない。

 やきもきしていたが、そのうちおばあちゃんが寝がえりを打って、仰向けになった。しかし気を付けなければならない。そんなときは眠りが浅く、目に糊など塗ろうものなら、起きてしまうかも知れない。

 おばあちゃんが寝てから30分も経っただろうか。上を向きながら鼾をかいている。チャンス到来だ。私は糊の瓶の中からたっぷりの糊を人差し指に取り、なるべくおばあちゃんの目を強く押さないように垂らすように塗った。

 片方の目が完成。もう一つの目に塗ろうとすると、おばあちゃんがまた動く。しかし、目は覚まさない。意を決して、もう一つの目にも糊をたっぷりと乗せ、作業は完成した。

 さあ憎いおばあちゃんが起きるとどうなるか。私はとても恐かったが、その様子を是非見たい。寝てから1時間くらい経つとおばあちゃんは眠りから覚めそうだった。そのころには糊も乾いて、おばあちゃんの目は開かない筈だ。

 楽しみだった。おばあちゃんがどんな反応を示すか。あの憎いおばあちゃんがどのように変貌するか、私はわくわくしてその瞬間を待っていた。

 おばあちゃんが動き出した。さあ起きるぞ。見ているとおばあちゃんは目を気にしながら、体を起こした。しかし目は開かない。

 おばあちゃんは目を擦っているが、糊を付けた目は絶対開かない筈だ。おばあちゃんは盛んに目を擦っている。糊は取れないので、目は開かない。

 しばらくそうしていたが、どうも諦めたようで、私に向かって「おばあちゃんはもう目が見えなくなりました」と言った。やった、やった。私は復讐を遂げた快感に浸って暫くおばあちゃんを見ていた。

 おばあちゃんはしかししょんぼりしている。そんな姿を10分も見ていると私は可哀想になり、水と手ぬぐいを持って来て、おばあちゃんの目の上の糊を溶かし出した。

 柔らかくなったところで、糊をゆっくりと目から外すとおばあちゃんの目は開いて、おばあちゃんはきょときょとと周りを見回している。

 ところがそのうちこれは私の仕業だと感づいたおばあちゃんが、「修平、お前だな。こんな悪さをしたのは」。私は必死に「違うよ。やっていないよ」と言うが私以外にそんなことをできる人がいない。猫は勿論そんなことができない。

 おばあちゃんは「正直に話せば許してあげる」というので、私がやったのだと白状すると、おばあちゃんは許してくれるどころか、また煙管の頭で私の頭を思い切り叩いた。おばあちゃんを懲らしめてやろうと思ったが、私がまた懲らしめられた。

酒巻 修平

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