昇給、ボーナスの査定

  会社の仕事で何が難しいと言って、この昇給とボーナスの査定ほど難しいものはない。考えなければならないことはいくつもあって、それぞれに決定の根拠の比重が違うからだ。

 給料を高くしたいのはやまやまだが、会社の経営状態や将来のことを考えると限度がある。一方少なすぎると社員の暮らしが大変になる。この二つの相反する要素のバランスを考えなければいけないので頭を悩ます。

 ある社員がずっと同じ仕事を同じレベルでやっていると昇給する理由が見当たらない。物価が上昇すれば自然と売上も増加するので、給料も自然に増加する。これはベースアップと言って昇給とは違う。決めるのも簡単だ。しかしもし物価が下落するとどうなるのかという問題も含んでいる。1992年ころにバブルが弾け、物価が下落した場面がそうである。

 仮にある社員が長年同じ仕事を同じようにしていたとすると会社としては昇給する理由がない。だが昇給しないと社員には先の楽しみがない。もう少し高度な仕事をしてもらえば良いのだが、適当な職務がない。それは会社の責任だから、やはり昇給してあげないと可哀想だ。

 社員同士の比較の問題もある。社員は自分の給料の額を他の社員に漏らしてはならないとされていても、いつの間にかほとんどの社員が他の社員の給料を知っている。何らかの圧力で言わされてしまうこともあるし、社員が外で食事をしているときなどに話し合うことも多い。

 営業マンが独立して自身の会社を設立しても上手くいくとは限らない。その時には自分も組織の力を利用して仕事をしていたことが分かる。大会社は特にそうだろう。名のある会社の社員が営業のために他社を訪問したいと思えば割と簡単に受け入れて貰える。

 名もないような会社の場合はそうはいかない。だがことにも会社のサポートがある。裏方の経理や事務職がいるから営業マンは営業に専念できるのだ。独立するとそうはいかない。事務も一人でこなさなければならないことになるし、雑用も降りかかってくる。

 社員の給料はそんなことも勘案して決定しなければならないのだが、額に満足する社員はほぼいない。特段の要求をしなくても心の中ではそう思っているに違いない。

 営業マンには二種類のタイプというか、職掌がある。新規の顧客を獲得するのを主とする人と旧来から会社に存在する顧客との取引を潤滑にかつ売上を増加させる役だ。

 どちらが難しいというのではないが、売上が多い営業マンがより多くの収入を欲するのは自然のことだ。しかしたまたま古くからの顧客で、注文量が多い会社を担当させられるとラッキーだろう。普通にやっていると業績が上がるからだ。

 こんなことを考え銀行などでは新規の顧客を獲得する人に見た目より良い成績査定をするところがある。

 ボーナスの出し方も難しい。たまたま社会の状態で会社の業績が自然と上がることもある。だから個々の営業マンの業績も良い。するとより良いボーナスを期待する。しかし社会は移ろい易い。業界全体が沈んでくると売上も沈む。それは分かっていても営業マンはどうしても良いころの額を心に描く。

 事務系社員と営業系社員は職掌の違いだが、営業系の社員はどうしても売っているのは俺たちだとの意識が強い。ボーナスにもっと差をつけろと要求する。一人それを強く主張する人がいたので、面倒になってその人にボーナスの査定を一任したことがあった。

 査定の結果がなかなか出て来ないので、催促するとちょっと待って欲しいと言う。一週間も待たされ査定の結果を見ると、社員間の額の差が前より少ない。どうしたことかと尋ねると色々と理由を並べるのだが、こちらは納得できない。結局その人はボーナスの査定に関して文句を全く言わなくなった。

 今思い出しても社員に与える報酬の額の決定は嫌な役目だった。アメリカではすごく細かい規定があり、入社のときにそれを了承させると聞いたことがある。アメリカでも苦労していて、そんな査定方法は苦労の結果捻り出した方策とみた。

酒巻 修平

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