嘘
嘘とは何であろうか。真実あるいは本当の考えなどと違うことを告げることと考えればそう異論はないだろう。
しかし嘘には2種類あることには気を付けなければならない。一つは「嘘も方便」という言葉に代表される嘘である。
現在では必ずしも死病ではない癌に関して、2,30年前まで医師はこの種類の嘘を使った。癌は自然に治ることも度々報告されているが、医師が「あなたは癌です」と告げると患者は先ず死を考え、目の前が真っ黒になった。
そうなると自然治癒する可能性もなくなり、まだ生存期間があるにも関わらず自殺する人も出てくる。そんなときに「胃潰瘍ですね」と胃癌患者に言ったりしたものだ。
普通の容貌の女性に「美しい」とか「魅力的」と褒めるのもこの種の嘘とも解釈できる。こんな場合は人を傷つける意図がないので、一般に言われている嘘とは趣を異にする。
性格が悪い人が「誠実だ」と言われ続けると本当に誠実になることさえあるのだ。逆に「性格が悪い」と言い続けられれば、ますます性格が悪くなるだろう。
人には二面性があり、本来はどちらの性格もその人が持っているものなので、本当に性格が悪いかどうかは判定が難しいことさえあるだろう。
ある幼稚園の先生に聞いたことだが、いつもおねしょをする幼児には次のように言うことにしているそうだ。「おねしょって気持ち良いのよ。先生も小さいころいつもおねしょをしていたけれど、あんなに良いことはなかったわ」
そんなことを言われた幼児は立ちどころにおねしょをしなくなるそうだ。即ち「嘘も方便」の嘘はこの種の発言である。嘘は相手の脳に直接働きかける刺激的な言葉だ。
大体欠点をそのまま正直に話す必要は全くない。相手はあなたを恨むだけでなく、言われた相手をも傷つける。だから欠点に対しては絶対に本当のことを言ってはならない。ここに「嘘も方便」という言葉が成立した理由があるのだ。
一方話す相手の不利益になるような嘘は真正の嘘だ。この嘘は虚偽とも表現される悪質なものだ。しかしその嘘が表面化して嘘だと分かると嘘を付いた人や会社は必ずしっぺ返しに会う。
この一年を振り返ってもこの手の嘘が如何に多かったか。政治家は職業柄この手の嘘を付くのが上手でしばしば使う。嘘を付いている本人はその内自分の本心も分からなくなってくる。
もと社会党の村山富市なる男は内閣総理大臣になったとたん、今まで反対だった自衛隊を合憲として観兵式も催した。最近では最も忌み嫌う政治家である。彼は自分の本心がどこにあるかも最終的には分かっていなかったのではないか。
彼の所為で社会党は壊滅的な打撃を受け、今や当選する議員は一人になってしまった。忌むべき男である。
最近日本礼賛番組がテレビで放映される。確かに一般庶民の質は諸外国より高い傾向にあるが、私は首を傾げる事態も度々目にする。
大会社は利益だけを優先するようになり、虚偽のデータを発表するし、虚偽だと知られてもさらに嘘をつき嘘の上塗りをする。
キリスト教国では嘘は最大の罪悪の一つである。ニクソン元大統領が罷免されたのは横領ではなく虚偽の発言をしたからだとされている。
私は長年アメリカと商売をしているが嘘をつかれたことはほとんどない。だから相手の言うことは本当だと信じられるから仕事がし易かった。
なお100ある事実の内で大切な10の事項を言わなければそれも嘘だ。我が社の売上は1000億円だと言われるだけではその会社が優良かどうかは判定できない。ひょっとすると大きな赤字を抱えているかも知れないからだ。
この手の嘘が一番見破り難いので注意しなければならない。幕末に日本に来て手記を書いた「アーネストサトウ」の本を読むと如何に日本人が嘘つきであるかが良く分かる。
これからはそんなことは改めなければならないし、長い目で見れば嘘は利益を産まない。しかし嘘はなくならないと思った方が良い。
酒巻 修平