店が繁盛する日、繁盛させる人
薄暗い雨の日は酒場には客は少ない。電話が掛かってくることも少なく、道路は空いている。昼間の電車の車内には乗客はちらほら見えるだけだ。
こんな日は何をやってもけだるさが消えず、仕事もはかどらないという気分になる。何となくその日はやり過ごして早く寝てしまう。そんな日は誰でも経験しているはずだ。
ところが大雨の日なのに店には来客が多いし、物が飛ぶように売れることがある。店の方もどうなったか訳が分からない。客との対応に追われる。どうしてそうなるのか。
からっと晴れて清々しく快適で、郊外にでも遠出しようかと思うくらいの日。案外どこに行っても店に活気がなく、客数も少ない。店も当てが外れてがっかりする。何故だろう。
太陽を初め恒星からの宇宙線量が多いのか地下のマグマの働きに関係があるのか、それとも気圧の関係か。それともなければ人の脳が行動を制限するような状態になっているのか。ではどうして多くの人の脳がそのような状態になるのか。どう考えても理由が判明しない。
そんな時私は電話を掛けまくる。しかし会話は弾まないし、仕事も進行が遅い。人々は快活でない。私ははぐらかされて気持ちになり、酒を飲んで早く寝てしまう。
あの人が来るとその後客の入りが多い。あの人が来ると客は潮が引くように帰ってしまう。本人に何の気構えもないのにそんな現象が起こる。店はあの人が来てくれないか、あの人だけは止めてもらいたいなどと期待したり、祈ったりするが、ままならない。
アメリカの精神学者が書いた本にもそんなことが書いてあった。原因は社会やその人の回りに存在する気あるいはオーラが関係するという意見と、統計上の数字が並べられていた。
これらは現実に起こる事実である。警察が統計を取って満月の日は人の精神が見だされ事故件数が多いと発表したが、これも不思議現象の理由なのだろうか。ヨーロッパでは満月の日には狼男が狂いまくるという言い伝えもある。
それでは月が原因かとも考えられるが、満月の日にも店は繁盛するし、その反対に閑古鳥が鳴くこともある。江戸の書物にもこんな話しが出て来ることを考えると、この現象は決して空想の産物とも思えない。
理髪店、酒場、飲食店、美容室などは水商売に入るようだが、彼ら曰く「水商売は分からない」と客の入りが悪い時や良すぎる時の理由が分からないし、予想は不可能だ。そんなことを呟く。
しかし何も水商売だけではない。雨の日には会社に掛ってくる電話の数が少ない。株式相場の出来高にも関係があるようだ。
人は何に押されて行動を開始するのか。自分の中だけで何かが起こっているのか、それとも外界の状態に影響を受けるのか。こんなことを研究している人がいるのだろうか。もしそんなことを書いた本があれば読んでみたい。
私は酒場に行くときはできるだけ雨の日を選ぶことにしている。店には喜ばれるだろうし、サービスも良いだろうと期待するのだが、どうもいけない。店の人もやる気が半分しかない。私はただ食べ、ただ飲んでフラストレーションを抱えて帰宅する。
人の行動は脳がそのように命令するからに相違ない。自然にそうなることもあるし、意図して自分がしたい行動を自分が命令することもある。脳はそれを受けて、意思を創設して行動に結び付ける役目を果たすのだろう。
社会の多くの人が積極的な行動を起こす時に自分も行動を起こせば、仕事上の自分の成績は上がるだろう。しかし行動を起こしている人にも程度の違いがある。その時に自分だけは高い程度の行動を起こせば良いのではないかと考える。
博打で勝利するには勝つ時には大勝して、負ける時は少し負けるのが良い方法だと教えてもらった。勝つと気持ちが積極的になるので、その時により積極的になるように自分を追い込めば良いのか。
もし人以外の動物も同じような行動をするなら、それは天体に影響されてのことと考えるより仕方がない。もう諦めて天に成り行きを任せる以外になさそうだが、人だけは違うということもあるだろう。まったく面白い現象である。
酒巻 修平