実家の模様

 ある知人の女性から聞かされた話しである。その知人の娘さんが何年か前に結婚した。娘さんは東京出身で相手の男性は優秀だが地方の出である。ただ男性は東京に勤務し、それなりに東京での生活も長い。

 問題はそのお母さんである。とても真面目な方(知人の評価)なのだが、独得特有の考え方を持った女性でその固定観念だけで全てのことを評価する。世間、教育、食べ物、健康など、全てのことに自分の考えを押し通す人らしい。

 その娘さんが子供を持った。そうするとすぐに七五三祝いがやってくる。現金書留が分厚い。中には200万円もの大金が入っている。感謝の挨拶はどう言えば良いのか言葉が見つからない。

実家のお父さんが家庭菜園を営んでくるので、時に大量の野菜が届く。大根12本、ニンジン20本、白菜8個などなどである。

 使い切れないのでそのお母さんである私の知人に取りに来て欲しいと電話が掛かる。収穫期にはⅠ週間に一度、そんな贈り物が届いて腐らしてしまうこともあるようだ。

 その人は絵手紙が趣味だ。とても面白く、だから自分の息子の嫁である知人の娘さんもそれが好きだと思い込む。「あなたも絵手紙をやりなさい」と何度も勧めてくる。娘さんは子供の世話で忙しいし、絵も不得意だそうだ。

 義母夫妻は遠くにいるので、何とか時間を作って夫と一緒に子供を見せに連れて行った。そんなに多くの人の食事を最近は作らないだろう。夕飯作りが大変だ。娘さんが手伝おうかと提言したが、断固断られた。

 すき焼きをしてくれることになった。深い寸胴の鍋を持ち出し、肉を1kgも用意して、そこに入れる。それから醤油を瓶の1/3くらい注いで、砂糖をやはり500gほど振りかける。水は入れない。肉に火が通ったところでかき混ぜ、さあどうぞ食べてねと勧める。

 食べると塩っ辛過ぎるし甘過ぎる。喉に通らない。肉を口に入れて少し噛むんだが、それでも醤油と砂糖で何ともならない。お腹は空いているので、ごはんを沢山、口に入れて肉を少しだけ食べる。そうして食事を何とか終わらせた。夫のお母さんは「あら、お肉嫌いなの」と非難するような目で睨む。

 そのお母さんは良い人だから肉が嫌いな娘さんを可哀想に思ったのだろう。ほうれん草のおひたしを出してくれた。やれやれ助かったと思った娘さんはそれを見て二度びっくり。おひたしは形がないほど熱が通っていて、歯ごたえは0。塩ゆでもしていないし、醤油もない。泣くような気持で何とか喉を通し、その日は寝た。

 お早うございますと挨拶した娘に夫のお母さんは「良く寝れた?」と極めて常識的な態度。安心して食卓に付いた。お母さんは「今目玉焼きを作るからね」と安心させる。

 夫と待っていると少し大きめのお皿を二つ持って来てテーブルに置いてくれた。やれやれと安心して箸を取り挙げて目玉焼きを突こうとすると、目玉焼きに上に縮緬雑魚と山盛りの野沢菜。これ美味しいのよとお母さんの言葉に娘さんの箸は止まってしまった。

 異様な光景だった。野沢菜に隠れて卵は見えない。縮緬雑魚はあまり問題ではないが、それも量が多すぎる。ある程度野沢菜と縮緬雑魚を食べないと目玉焼きには箸が届かない。上に乗っているものを取り除けるとお母さんに非難されそうで、これは野沢菜だと思えば良いと菜を食べ始めた。

 しかしとうとう目玉焼きには箸は到達しなかった。お母さん「あら、卵嫌いなの」とおっしゃる。「違うの。卵は好きだけど、野沢菜と縮緬雑魚が多すぎる」と言いたいのをぐっと我慢して笑顔でごまかした。

 あまり食べていないが、食欲がない。雑談をしてそこらを散歩することにした。おいてきた子供に危害がないか心配だが、子供を見せに来た手前、連れだすわけにはいかない。

 1時間も散歩をしただろうか。外は新緑で清々しい。生き返ったようになって家に戻った。お母さんは台所で何かしている。不吉な予感がしたが、夫と雑談を交わしていると、さあ、お昼ができましたよと声が聞こえた。美味しいカレーライスの匂いが漂っている。

 夫はカレーライスが好きなので、それを振舞ってくれるらしい。昨日から普通の食事を食べていないので、とても期待が湧いた。お母さんがお皿を二枚持ってきた。

 テーブルに置かれたカレーは美味しそうで、良い匂いがしている。思わず涎も出そうだ。そうしているうちにお母さんはスプーンと何かを取りに行った。スプーンは良いとして右手には練乳のチューブを持っている。何をするのかと思うとやおらカレーの上にぐるぐると練乳を思い切り絞り出して掛け出した。止める暇もない。

 食べるのは相当な努力が必要だ。涙のカレーライスとなった後のデザートはケーキ。お母さん曰く、「この辺にもやっとシャトレーゼができたので、昨日買ってきたの。食べて」と持ってきたのはホールケーキ、

 それを4分割してお皿に載せて出された。ここらが私には分からないところで説明を聞くと、東京ではこのブランドは甘すぎて美味しくないので有名だそうだ。なるほどと思ったが男の私はケーキを食べないので感想はない。

 娘さんのお母さんは「本当に困っているらしいわ。次に夫の実家に帰省するのは恐怖だと言っている。どうしたら良いのかしら。こういう場合は」。その相談に乗る私には言葉がなかった。

酒巻 修平

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