二人の社員

 私は上司として社員から何かの提案があった時にはそれを何とか採用する精神でいた。それでないと社員の積極的な仕事の態度が損なわれると考えたからだ。

 ある時、ある社員が原価何十万かの機械を輸入して販売するアイデアを出した。数量や販売計画を提出され、私はそれを承認した。商品は5台だった。

 さて商品が入荷し、販売を始めたが販売完了予定日までに売れた台数は2台。それで理由を聞くことにした。その営業マンを非難するためではなく、何故計画と実績が違ったのか、その理由を知りたかったのだ。

 するとこの社員は「あなたも不良在庫を出すでしょう」と答えたので、「いや、そういうことではなく、計画通り売れなかった理由を知りたいだけなのだが」

「そんなの分かりませんよ。精一杯努力はしましたよ」

 こんな社員が今でもいるのかどうかは知らない。計画はあくまで計画でその通りに事が運ぶかどうかは未知数だ。だが計画がどうして狂ったのかは知りたい。

 設定した販売単価が高すぎたのか、市場が思ったよりなかったのか、機械の作業効率が悪いのか、あるいはその営業マンの能力、努力が至らなかったのか。そういうデータは後で必ず役に立つ。

 だがその営業マンの返答はあまりになさけない。自分が計画通りに営業できなかったのを「あなただって、過去にそういう経験があるだろう」と言われるとそれは単なる事象の検索に過ぎない。

 今度はまるで逆のような話しになるのだが、やはり何か商品を輸入、販売したいと申し出てきた社員がいた。この時も販売計画を出してもらい、その提案を受け入れた。

 ところが商品は思ったより早く売り切れてしまった。そこで聞いた。「謎そんなに早く売れたのか、理由を知りたい」と問うとその社員は困った。

 売れたから良いだろうというのは常識的過ぎる。売れた理由を解析すると将来その解析に従って売れる計画や売れる商品の選定に役立つ。

 色々な角度から質問をするとどうもその営業マンの腕が良かったのだと判明した。そうすると同じような商品を仕入れても他の営業マンでは販売がスムースに行かないことがある。

 そんなことを勘案して社員の提案が計画通り進むかどうかを見極めなければならない。

 一番目の社員は今消息が不明だ。会社を退職して何人かで自分たちの会社を設立したが、すぐに内部で諍いが発生して、会社は自然消滅。その元社員は何かで債務を負い、今行方不明だ。家族が行方を知っているかどうか分からないが、兎に角家に帰らなくなった。

 どうも能力とは人の精神にあるようだ。そんなに難しい仕事をするのでなければ、商品の良し悪しより売る営業マンの気質や人に好かれるかどうかのようなことが重要に思える。

 性能がたいしたことがない商品が売れないということはない。要は売る人の精神状態が良ければ売れるのだろう。

 二番目の元社員は今も消息が知れている。これら二人の人はどう違うのだろうか。一番目の社員は客との会話の中でも上記のように言ってはならないことをつい言うだろう。

 だから引き継いだ客の大半は消滅し、残った客で売上を何とか維持していたようだ。特定の会社に多額の売上を立てるとリスクが大きくなるのは当たり前だ。そう説明してもその営業マンは聞く耳を持たないだろう。

 こういう営業マンもいた。会社が貸与した車の維持管理をほとんどしない。だからエンジンオイルが固まりガソリンスタンドでそれを指摘された。で、それを注意すると「忙しいので、点検ができなかった」と言い訳をした。

 その社員は頭が良く、能力がある。それで新規顧客を獲得する役目に付けた。最初は予想以上に成績を上げ、会社に多いに貢献したが、そのうちまるで駄目になった。それが3年も続いただろうか、あまり能力と実績に差があるので、私は疑いを持って調査会社に調査を依頼した。

 結果、その社員は一時間も働いていないことが発覚した。会社に出て時ころ営業に行くと称して外出する。だがすぐにパチンコ屋に入り、1000円ほど負けてそれからは街をうろうろしているのだそうだ。本当に退屈そうなんだそうだ。

 そんなに退屈なら仕事をした方がましな筈だが、仕事はしない。調査会社のレポートが上がってきた日、私は自分の勘が当たったと思い、2ヶ月ほどの余裕を与えて馘首した。

 能力があるのに会社あるいは私に不満があったのだろう。そんなサボタージュをして会社だけではなく、自分の利益も失くしている。もったいないと今でも時々思い出す。

 サラリーマンのストレスの話しは良く聞く。だが経験上小さな会社の経営者や困った社員を持った上司のストレスはもっと酷い。

酒巻 修平

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