本は何を与えてくれるか

 最近は本を読む人が少なくなったし、蔵書という習慣は亡くなりつつある。だが本をじっくりと繰り返し読む楽しみや有義のため蔵書するのは一つの本に対する処遇であろう。

 自分の時間を読書で有意義にさせる。そんな楽しみがある。新聞や雑誌、テレビを見るのに変えて本を読むのは時間の過ごし方の一つに違いない。中には漫画を好きな人もいるだろうし、山草の図鑑を見る人もいるだろう。

 そのために図書館があるし、ちょっとした時間では立ち読みという昔からの風賞もある。自分が知らないかったこと、興味が湧いたことに関して本を読むとなるほどと思い、今までの疑問が氷解するのも本を読む醍醐味の一つだ。

 本の内容を利用するというのも本を読む目的の一つだ。整頓術、ゴルフの上達方法、年金に関する適切な処置、グルメを楽しむ店の名前、場所。最近はどんなことでも知ることができる。こんなことを教えてくれるのは「ノウハウ本」と言うのだろうか。

 自分が思考したこと、理論を確認することもできる。他人はあることにどのような意見を持ち、その結果どういうことが起こるのか発生が予想されるのか、自分の考えと照らし合わせて参考にすることもできる。

 酒場の会話を面白くするために本を読む人もいるだろう。何故明智光秀は本能寺で織田信長を襲撃したのだろうか。背景にはどんな状況が存在していたのか、昔から色々な考察がなされていたか、歴史好きな人が二人いれば秋の夜長に語り合う材料を提供してくれる。

 小説家は本をよく読む。自分が知っていることを組み合わせてフィクションを小説にすることもできるが、本の一部からヒントを得て、小説に組み立てるという作業をすることもできるだろう。

 あるいは今までになかった考え方、理論がどこかにないか確かめることもできる。それらしい題名が付いた本を読み、果たして自分の考えは新しい学問分野を切り開くことになるかも知れないと確認することもできると思う。

 こんなことは論文という形のものを読むことから確認できるが、考えてみると論文も本と言えば本だ。

 今日は雨の土曜日だ。アマゾンから買った本が郵便受けに入っていた。あるいは運送会社が届けてくれた。その本は包装紙に包んである。それを開ける時の楽しみ、喜びは何より楽しい瞬間である。

 先ず本の目次を見る。確かの読みたいことが書かれているようだ。すぐ読みたいが夜寝る前に取って置こう。いや3,4ページだけ今読みたい。こんなことに迷い、買った本との対面は心が充実する。

 欧米の本は日本の本より内容が一般的に濃い。それはそうだろう。ベストセラーになった本しか翻訳されないので、その時点で選別されている。でも翻訳家も能力が様々だ。

 どう読んでも分からない文章が出て来たりするし、大体日本語になり切っていない翻訳も多い。それでも大筋は読める。完全な間違いだと思える翻訳もあるが、日本人との考え方の違いを痛感させてもらえる。

 最近の翻訳家は昔のように詩人や小説家ではない。彼らは翻訳の専門家である。だから良い文章やもっと適切な言葉がないか、一つの言葉の翻訳に何時間も掛けることは効率が良くない。翻訳家は金儲けのための職業だ。

 だが昔の上田敏や堀口大学の翻訳は原作者の文章より上手いことが多い。

「The best way to go on travel is to do by yourself」という書き出しの本があった。それを堀口大学は「旅行は一人で行くに限る」と訳した。明らかに堀口の翻訳は原作に勝っている。

 上田敏になると天才的だ。

「秋の日の ヴィオロンの ため息の 身にしみて ひたぶるに うら悲し

 鐘のおとに 胸ふたぎ 色かへて 涙ぐむ 過ぎし日の おもひでや

 げに我は うらぶれて さだめなく とび散らふ 落葉かな」

 これはフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの「秋の歌」という題の詩の翻訳で、

原文は

Les sanglots longs

Des violons

De l’automne

Blessent mon cœur

D’une langueur

Monotone.

とある。私はフランス語が分からないが、辞書を頼りに翻訳してみると

  「秋のヴィオロンの長いすすり泣き 単調にけだるく私の心を傷つける」

 フランス語をフランス語として味わえる人はこの有名な詩人のこの詩を味わい深く読むだろうが、上田敏の翻訳も翻訳の域を超えて芸術的である。

 そんな翻訳はもう今はない。多分私の拙い翻訳程度で済ますと思われる。またアメリカなどの本を読むとページ数を稼ぐため、増量が多く、興味を半減させる。

 物事をやる第一義は上質にやることで金儲けが最初にあってはならない。良い物を作り、良いサービスを提供することは結局金に行きつくという考えは少なくなった。

昨日届いた本を今日は読もう。

酒巻 修平

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