一イラン人の嘆き

 ある日アポとアポの間が4時間もあって時間を潰すのに苦労をした。最初のアポは繁華街の近くで、銀行の担当者が変更になるということで挨拶を受けた。

 最近銀行は元気がない。企業の資金需要が活発ではないし、利益(金利)もそうは取れないので、またぞろリストラを始めるとの噂が喧しい。

 人材的にも資金的にも銀行はどんなことでもやれそうなのに、上層部は能力のない人ばかりなのか、企業の存続はリストラばかりに頼る。何か良い方法はないものとリストラされる人を気の毒に思うが私が経営者ではないので、ま、他山の石だ。

 担当者もあまり能力のなさそうなだったし、若く経験も少ないので、話しは弾まない。ただ要件は顔合わせだけだという態度であったので、早々に別れた。

 新しい担当者がどういう人が見極めて少しは興味のある話も出ると思っていたので、ここでは1時間半を会見の時間に当てていた。

 その当てが外れて40分も早く別れたので、余った時間が余計に増えてしまった。仕方なく辺りをぶらぶらする。

 丁度お昼ころになったので、昔からある餃子屋さんでランチをしようと考えた。店はほぼ満席でサラリーマン風の人ばかりに見える。

 私は餃子6個が乗った皿と半チャーハンを頼んだ。美味しい。料金も驚くほど安くて520円。カードで支払った。最近はこんな小さい金額でもカードで支払うことができるので、とても便利だ。

 それでもまだ時間を潰さなければならない。ランチを終わって歩いていると絨毯屋を見つけた。友達にも絨毯屋さんがいる。その人はパキスタン人で、インドとは仲が悪いといつも話すが、この絨毯屋さんはどうも違う国の人のようだ。

 店は繁華街の目立つところにあるので、家賃は相当高いだろう。しかし聞くと店はもう40年もやっていると言う。

 客は私以外にいない。見てみると絨毯は高級品が多く、素材はシルクのようだ。でも思ったより安い。だが我が家に絨毯はもう要らない。友達から流しの下と階段下に敷くのを買った。

 それで時間潰しをしようと話しを始めた。相手は日本語が堪能で、話しは弾んだ。良い絨毯を作るには一日5ミリくらいしか編めないという。

 だから大きいものでは3年ほど掛かるらしい。これでは原価も相当掛かるだろうにどうも販売価格と仕入価格が折り合わない。ここがいつ聞いても不思議なところで、絨毯屋さんが倒産しない理由もその辺にありそうに思う。

 イランは主に石油の輸出をして外貨を稼いでいると思っていたが、最近石油は儲からないらしい。生産コストが掛かり過ぎるというのだ。

 私は冗談にキャビアはどうかと聞いた。勿論石油と比較すると産業としては極めて小さく国を潤すほど金額が張らないのは分かっていた。単なる冗談のつもりだったが、店主は真剣に応える。

 ソ連が崩壊する前、カスピ海はイランとソ連の二か国だけに囲まれていたので、カスピ海産のチョウザメ(キャビアの親)の捕獲を調整する条約を締結していたらしい。

 それがソ連の崩壊と共にカスピ海を囲む国は合計6か国になり、そんな条約は意味がなくなった。ソ連から独立した国が小さな金額でも稼ぎたいとの思いからチョウザメを乱獲するらしい。こうしてキャビアはますます貴重品になった。

 そこからはいつもの政治の話しになった。今イランは核問題でアメリカともめている。一般の国民からすると核兵器など必要がないので、廃絶したら良いという意見が大半を占めている。

 だが独裁政治を行っている宗教家はアメリカと勝ち目のない争いを継続しようとしているとのこと。やはり政治家は政治家に任せ、宗教家は自分の仕事に励むべきだと力説する。

 どうもイランは独裁国家らしく、中国やロシアと同様これから経済は発展しないようだ。どうして独裁国家ができるのか、不思議なところだが、ソ連が崩壊して民主主義国家が誕生したと思ってもまたプーチンという独裁者が現れた。

 これら独裁者は政敵や反対する人を簡単に殺すらしい。イランでも同様で困るのは一般国民だ。いつの日か不誠実な独裁者がこの世からいなくなる日が来ないのか憂慮する会話だった。

 時間を潰さなければならないことが幸いしたのか、私はイランのことが少し分った。どうも政治家には国民を幸せにする能力がないらしい。

 そう夢想していたとき本当に絨毯を買いたいお客さんが店に入ってきて、店主はそちらに話しをしにいった。それを潮に私は次の時間つぶしを考えるため店を出た。

酒巻 修平

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

前の記事

預金に課税案

次の記事

誠実ビジネス