世界の歴史的悪法

1.考えて思い付く最初の悪法はアメリカの「禁酒法」であろう。元々アメリカはピューリタンが中心になって建国された国。

 精神や肉体の純正さを旨とする教徒に取って酒を飲んで見せる人の醜態には嫌悪感を催したのだろう。

 アメリカも未熟(今でもだが)な国だったのか、この立法のデメリットを考えなかった。あるいは強硬な議員に押し切られたのか、この法律ができてしまった。

 だが少し考えれば分ること、居酒屋の売り上げは下がるし、飲みたい人間はどうしても飲もうと努力するはずだ。

 自分で不味い酒を造ったりマフィアの財源にされたり、さんざんだった。だがやはり法律の行き過ぎに気が付いてのだろうか、13年後にこの法律は廃止された。

 酒は荒ぶる精神を抑制する作用があり(その他、麻薬、たばこなどもそうだ)、キリスト自身もワインは自分の血だとしてむしろ飲むことを奨励していた。アルコールの効用を知っていたのだろう。

 

2.アメリカでは南部を中心に奴隷制度が存在した。元々はイギリス発祥だったこの制度はアメリカでほぼ法律化され、南北戦争で南軍が敗れたのをきっかけに廃止になった。

 当時北部では工業化が進んでいたが、南部の産業は綿花栽培など農業が主だった。そして奴隷制度の廃止により奴隷を搾取していた南部の農業主は利益を生むことができなくなった。

 だが多分今でも南部では奴隷の子孫であるアフリカ系の人を下に見る風潮があるだろう。有色人種差別の根本はこの辺りにありそうだ。

 私がオレゴン州でビジネスの会談をした時、聞いてみたことがある。「もし黒人がこの町に入って来たらどうなる」という問いの答えが{No Body Knows}だった。意味は多分誰かに殺されるだろうという意味だ。

 それはたかだか10年ほど前のことだから、今でも差別的な精神は北部でも残っていると思われる。

 私のことは有色人種と思っていなかったから、正直な心の中を話したのだろうが、不気味であった。

 カリフォルニアに滞在中こんな出来事もあった。私があるレストランに入っていくと白人の女性が一人で食事を摂っていた。

 私の方を見たがただそのまま食事を続けた。だが、そのうち黒人の女性が入って来ると、ウエイターを呼び、席を換えて欲しいと頼んだのだ。

 その声は私の席でも聞こえ、嫌な感じがしたが、当の黒人は無表情でただ黙っていた。

3.人種差別関連の悪法と言えば南アフリカ共和国の「アパルトヘイト」だろう。友人から聞いた話しだが、こんなことがあったらしい。

 その友人は交通事故で誤って南アフリカ人を殺してしまった。青くなった彼は取引先(白人)の社長に相談すると、10万円出せと言ったらしい。

 しばらくすると何でもなかったように、「片が付いたよ」と言われたそうだ。黒人の命はたったの10万円だったのだ。

 日本でも昔は車を持っている人が交通事故で人を殺してもやはり今のお金で換算して10万円ほど払えば示談できた。

 この法は

1948年に確立され、以後強力に推進されたが、

1994年全人種による初の総選挙が行われてこの制度は撤廃された。

 ヨーロッパ人との混血や、インドネシアセイロンマレー半島などから連行されたケープマレーや、おもにインドから来たアジア系住民、そしてネイティヴと呼ばれた黒人

との諸関係を規定する人種隔離政策であった。

 幸いかどうか分からないが日本人はカラードと呼ばれる被隔離人種には入っていなかった。

 だがやはり白人の気持ちの上の差別は今でも残存しているように思う。ヨーロッパの国の植民地になっているところの住民がそんな被害に会ったようだ。

 日本は日清、日露戦争に勝利したし、インドなどに駐留していたイギリス軍を極めて短期間に打ち負かしたので、ヨーロッパ各国も恐れをなしていたのかも知れない。

4.中国の科挙の制度は官僚になりたい人にとても大変な記憶を試す試験制度である。

 試験には70歳を超えた人も応募したらしいが、この制度の所為で中国の民主化が遅れたと言われる。

 その余波を受けて中国は先進各国に侵略され、国の体を成せなかったのだ。アヘン戦争で敗北し、アヘンを強制的に輸入させるなど、イギリスには大きな損害を与えられた。

 科挙の試験は我が東京大学の入学試験など問題外のような難しい試験で最高倍率3000というのもあったが、その試験の合格者は国に対して大きな貢献をする者は出なかった。

 杜甫、李白などの天才詩人はこの試験に合格していない。もともとの趣旨は平民でも能力のある人材を登用することであったが、試験に合格するには長い期間の勉強が不可欠で、やはりそんな無収入の生活を長く続けられる裕福な家庭で育たなければならなかった。

 日本でもいまだに官僚になる試験が難しく、主に東京大学出身者が官僚になるが、中国の科挙の制度がいかに国を後進国にさせたかの自覚がない。

 それは当たり前の話しで、社会は試験で答えられれば通用するほど単純なものではないのだ。

 それに試験は答えるだけで、もっと大切な質問技術が養えない。日本政府はまだ懲りないらしい。他の先進国は日本の官僚を薄のろと呼んでいるではないか。

5.共産主義は人の精神のあり方を無視する主義だ。上手に活用すれば貧困な人を救うこともできるが、主導する側がそんなことを考えない。

 人は残念ながら元々平等ではなく、ある程度の不平等も広い意味では平等である。それに中国に現存する共産主義は単なる独裁主義に過ぎない。

 ソ連はその制度の元で破綻したし、キューバの共産主義も風前の灯である。人が能力に応じて働き、欲望に応じて取るなど絵空事は動物界では成り立つ訳がない。

 そんなことが強制的にもし行われれば、弱い人はますます軟弱になり、怠惰に過ごすだろう。

中国で共産主義が起こってそれまでの優秀な文化は消滅した。チェック機構のない政治体制は大きく方向を間違って進み、中国も破綻の危機に瀕している。

そんな主義の唯一の例外は最近まで日本の大会社にあった年功序列方式だ。そこでは同期入社は能力の高さに関係なく、同じ給料を支給された。

格差は名誉で付けられた。課長、部長という会社からすると何の経費も掛からない役職制度を作り、能力のある人物の名誉欲を満たしたのだ。

どうもこのような悪法は面積の大きい国にあるようだ。小さな国ではチェック機構が働くのか、酷い悪法はあまりない。

 徳川の「生類憐みの令」くらいか。しかしこの令の対象には人が含まれていた。それまで一揆を起こした村は皆殺しに会った。それを憂慮した綱吉が農民も生類と見立てこの令を施行しようとしてが、周りが趣旨を歪めてしまったのだ。

 政治家や官僚とはどんなメンタリティーを持った人物なのだろうか。歴史上見るような悪法は人が立ち上がって滅却しなければならないだろう。

酒巻 修平

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