怪我の治し方
先日ピアノの蓋を閉める時に思いきり指を挟んで大変痛い目に会った。挟んだ指は左手の方だったのでまだ不便度は低いが何しろ親指でやはり大変不便だ。
早く治したい。回りの人は怪我したところが熱を持っているから冷やした方が良いとアドバイスしてくれるのだが、疑い深い私は本当かなと信じていなかった。
人間の体は臓器でも筋肉でも故障があれば治そうとするだろうというのが私の考えで、怪我した指が熱を持っているのならそれは治癒のために身体が努力していると読んだ。
その夜風呂に入って親指を湯に付けると痛い。これは危険信号である。そう考えた私は指を湯に漬けないよう注意した。
そんな私の注意が功を奏したのか親指は2日くらいで直ってしまった。やはり脳は嘘を付かないなと感心したのだが、もし冷やしていたらどうなったかは分からない。今度そんな怪我をしたら実験のため、冷やしてみようと考えている。
それで安心したのか、今度は階段を上がる時思いきり段の角で向こう脛を打ってしまった。これは先日の親指よりよっぽど酷い。
骨を打ったのだが骨は大丈夫そうなので、周りの忠告には従わず、医者には行かなかった。でも寝間着のズボンが当ってとても痛い。血も結構出ている。
仕方がないので、大きい絆創膏を貼って擦れるのを防止してその日は寝た。寝ていてもじんじんして痛みを忘れることができない。その夜は断崖から落ちる悪夢を見た。
夢は何故見るか、実生活とどのような関係があるのかは面白いテーマだが、それはここでは触れない。
ともかく絆創膏を貼ったまま何日か放置したがどうも直りが遅い。また考えた。絆創膏は人工のもので人間が傷の治癒を自然に行う邪魔をするのだと思い当った。確かにそうだろう。傷は空気に触れないと直りが遅い。
幸い傷は痛いだけでどうも傷口は塞がっているのではないかと絆創膏を剥がしてみるとまだ血が完全に止まっていないようだ。
それはそうだ。私には不整脈の症状があるので、血が固まり易くそれが脳や心臓の血管を詰まらせれば大変なことになるので、淀みによる血の凝固を防ぐ薬を飲んでいるので、血は基本的に固まり難い。
そこでまた考えた。血が固まる理由は複数あるが私が飲んでいる薬は淀みによる血の凝固を防ぐもので血管の断裂とは関係がない。だから血は固まるだろう。
見ていると血は10分ほどで固まり、恐る恐るズボンを履いた。擦れると少し痛いがこれは骨が炎症を起こしているからだと我慢した。
それから3日。最初の一日で痛みは半減、そして一日ごとに痛みは半減していく。だから絆創膏を剥がした日からすると1/2x1/2x1/2=1/6で、今日あたりは痛みがあまりない。
医者にも行かなかったので治療費の出費もない。もう骨の痛みも少なくなった。もし医者に行くと多分患部を縫うことになるので大変痛いし、人の治癒作用とは違う方向に直ってしまうのではないかと危惧したのだ。
昨夜の夢は白髪頭の元横綱の栃錦が国技館の近くのラドン温泉のようなところに来ていて、とても痩せている。どうしてそんなに痩せられるのかと秘訣を聞こうとしたところで目が覚めた。これは傷という実生活の影響が少なくなったことを意味している。
朝起きると猫の世話を先ず行い、それが済んでから朝食を摂った。気分は爽やかで何しろ治療費を掛けずに傷を二か所も治したことを自慢したい。
遅く起きてきた家人にそんな自慢をしていると、あなたは馬鹿だ。そんなことを考える前にもっと注意して行動しろ。もう若くはないんだから体には注意しないと駄目ではないか。そんなお小言をもらった。
だが私は考えている。もう若くはないと思うと本当にそうなる。人のお節介には耳を貸してはいけない。
そうは思っているが、傷はまだ完全には直っていない。気を付けなければならないがこれは性格上のもので、これからも傷をすると思う。私は賢いのか馬鹿なのかまだ判定が付かない。
酒巻 修平