どうして消費税を上げ、法人税を下げるのか
昨年10月に消費税が8から10%に引き上げられた。経済に対する悪影響をできるだけ避けるため、いくつかの対策が講じられたが、その甲斐もなく、経済は大きく落ち込んだ。
年率に換算するとGDPは何と6.5%のマイナスである。これは近年にない大きな数字である。
それに安倍首相が進めるグローバリズムが浸透してきて、各企業は価格競争を余儀なくされている。企業は絶えず価格競争をしてはいるが、心理的効果は大きく、精神的には競争を回避する手段は取るに至らない。
何故消費税を経済があまり良くないこの時期に引き合がなければならないか、どうもその政策には裏があるように思えてならない。
5%から8%に上げた時、日本の経済は悪くなかった。それで心理的には「ま、税制赤字を解消するには仕方がないか」と識者もある程度諦めた。だからメディアもあまり騒がなかったので、経済に与えた影響は小さかった。だが今回は違う。
安倍氏本人もかなりこの引き上げには躊躇した痕跡がある。何度か引き上げを延期して最後に決断したのだ。
そこへ新型肺炎の蔓延だ。しかしこの患者数は今のところ極めて少ない。政府の対策も早期に適正に行われなかったので、患者数や死亡者数はもっと多くても止むを得ない状況だったが、現状程度に収まっている。
インフルエンザでは毎年何千万人もの人が亡くなっていることを考えると、メディアは何故そちらの報道に力を入れずこの新型肺炎に偏って報道するのか、これも意図が分からない。
勘繰るとGDPの大きな落ち込みから国民の目を逸らすことを政府と報道機関で合意して故意に行っているように思えてならない。
死者が何千人のインフルエンザと10人程度の新型肺炎。どちらを優先して対策を講じ、国民にも注意を勧告しなければならないのか、数字だけを見ると一目瞭然ではないか。
テレビは自分たちの視聴率を稼ぐため話題性の高い新型肺炎の報道に偏重するのかはある程度分かる。しかし政府はそうではないだろう。
政府の歳入、すなわち税収は20年くらいほぼ変わっていない。消費税は3,5,8,10%と始まり、引き上げられてきたのに税収はあまり変わらない。減少する年もある。それは法人税が引き下げられたからだ。
法人税が下げられ、その代わり消費税が引き上げられて得をするのは誰だろう。例えばトヨタの例を考えてみよう。
法人税が40%のころトヨタの税引き前利益が1兆円としよう。すると法人税は1兆x0.4=4000億円である。消費税の計算は正確にはできないが、売り上げの全てが車だとして売上高2兆円、利益率が30%だとすると消費税はそのころ3%であったから、2兆x0.3x0.03≒180億円。
すると当時トヨタは4000億円(法人税)+180億円(消費税)=4180臆円の税金を支払ったと計算される。
今度は現在の税率から計算すると法人税の額は1兆x0.15=1500億円。消費税は1兆x0.10(消費税率)=1000億円。合計税金支払額は2500億円になり、4180臆-2500臆=1680億円の税金支払いの減少である。
ましてトヨタの売り上げは増加しているので、税の支払い額の差はもっともっと大きいだろう。そしてトヨタの売り上げの内容がまた違う。トヨタの国内での主たる売上高はローンの金利である。
このローンの金利には消費税は掛からない。仮にこの金利の全売上に対する割合が50%としようか。すると売り上げが変化しないとしても消費税は1兆x50%x0.1=500億円しか掛からないことになる。一方法人税は1兆x0.15で税金の支払い総額は法人税1500臆+500億=2000億円でしかない。
これを逆に国家側からみると2180億円の税収の減少である。トヨタ一社でもこの状態だから優良企業からの税収の減少は計り知れない額になる。
その減少分は消費税で賄っているのだ。だから国家は優良企業に課する税金を安くして各消費者に課する消費税を高くしているのだ。
こんな簡単な計算を財務省や政治家ができない訳はない。法人税を安くしても国際競争力が落ちるとも思えないので、負担を強いられているのは国民一人ひとりだ。
トヨタを初め優良企業は政治献金を多額に行い、こんな歪な税制を構築させた。献金は政治家、官僚に行くだろう。
だが野党がそれに反対しないのはまた不思議だ。多分野党にも多額の献金が亘っているものと思われる。こんな状態を国民は許せるのだろうか。
もちろんこれは推論でしかない。だが法人税を低くし、消費税を上げているのは事実である。
酒巻 修平