酔っ払いに絡まれたらただ酒を飲める - シドニー

 シドニーに仕事の関係で出張しました。夜は食事の後、勿論酒です。ぶらぶら歩いていると雰囲気の良さそうなバーがあったので早速入ってみました。当時私は若かったので夜の酒は欠かせません。

 ビールを飲んだあとマティニーやダイキリに取り掛かり、いい機嫌で時を過ごしていました。暫くすると老齢のおじさんが私の隣に席を占めましたが、相当酔っているようでした。

 おじさんはバーテンダーに強い酒を注文したのですが、バーテンダーは「Really?」

と聞きます。どうもこのおじさんは評判の酔っ払いのようでした。おじさんは「Why, not」と言ったので、バーテンダーが仕方なく注文された酒をおじさんの前のカウンターに乗せました

 そこからです。おじさんは暫くその酒と戯れていましたが、やおら私の方に向かい「Are you Japanese?」と聞きます。バーテンダーは気が気ではありません。私が「Yes」

と返答するとおじさんは声を大きくし「You,Jap,Why are you here」と喧嘩腰です。

ところが実は私は名うての酔っ払い処理屋なのを知りません。

 「Many of my friend were killed by dirty Japanese soldiers. You are dirty」と一段と声を張り上げます。そのうち回りの若者が心配そうにこちらを見始めました。喧嘩の仲裁に入ると面倒なことになると思ったのでしょう。誰もおじさんを止めに入りません。私は別に喧嘩をしている訳ではないので、へえ色々な意見があるものだなあとくらいしか考えていませんでした。

 それからもおじさんの暴言は止まりません。「All Japanese should be vanished from the earth」.おじさんの使った言葉を正確に記憶していませんが、非常に聞き苦しかったのは事実です。しかし相手は酔っ払いです。真剣に話を聞いても意味のないことなので,どのように処理しようかと考えていました。

 回りの人が沢山集まってきて「Please be patient」と懇願するように私を宥めます。おじさんが余りに私に失礼で喧嘩が起こると考えたのでしょう。私はそこで一計を講じました。よし今日の酒をただにしようと。

 それでおじさんに「I am sorry as Japanese. And feel very sorry for your friends」と言ってもおじさんは暴言を止めません。その都度私はおじさんの話を聞きそれにきっちりと対応していると、おじさんの言葉の激烈さが和らいできました。その後おじさんに「I dislike a war and you,too」とか言って適当にあしらっていると、おじさんは「Yes, of course」と同調しました。そのあとどんな会話があったかはっきりと今では覚えていませんが、私はとにかくおじさんの主張を真剣に(真剣さを演技して)聞き、同調しながら一般論を差し加えていくと、おじさんは到頭私に根負けして「You are a nice man. I was too rude]と言って、私に手を差し伸べて握手を求めました。

 回りの人が全員拍手をしました。そのうちの一人の若いひとが「I want to buy you a drink」と言ってくれると我も我もと私に酒をおごりたいと全員が申し出てくれました。それからおじさんも含めて皆で肩を組みながら、「Banzai,Banzai, Japan, Australia」と店中大騒ぎになりました。例のバーテンは私に尊敬の眼差しを向けていました。こうして私はしこたま酒を飲みましたが、一ドルも払いませんでした。

 またこんな酔っ払いがいないかと心待ちにしています。

酒巻 修平

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