野良猫出身のたまちゃん

 その野良猫を我が家で飼おうと思い立ったのは、彼女が特によく家の濡れ縁に滞在してその都度餌をやっていたからだ。

 くると長時間そこにじっとしていて、こちらが猫に目をやると時々「にゃあ」と何かを求めるように鳴く。

 当時は沢山の猫が家に遊びに来た。家では出し雑魚を猫に与えていたので、自然に集まるようになったのだろう。

 その猫が子供を産み、不幸にも全て死んでしまって可哀そうになったのが、飼うことになった動機ではあるが、どうもその猫に我が家が指定されたように思う。

 猫には猫独特の手練手管があるのだろう。それに我が家はまんまと一杯食わされて形だ。雌なので不妊手術をしてやらなければならない。

 大田区はその点助成制度が充実していて処置に対して8000円も補助金が支給される。

 何軒か動物病院に電話をしてこれぞと思った病院に連れていくと、女医さんが院長さんで、とても親切丁寧そして処置料も安価だった。

 無事手術が終わった後も1週間以上無料で猫を預かってくれておまけにトイレに使う砂まで頂戴した。

 今その女医さんは北海道へ行ってしまい、別の院長さんがいるがこの人も親切だ。だいたい動物病院の獣医さんは人間様の医師と違って親切で丁重な人が大半である。

 その動物病院では犬や猫のことを「この子」などとは呼ばない。「この人」と呼び、人間同様の対処をしてくれる。猫にこの人と言うのは笑ってしまうが、悪い気はしない。

 猫はその後「たま」と名付けて買い始めた。最初は餌を与える妻にばかりなついていたが、そのうち私にも顔を摺り寄せてくるようになり、これでは手元から放せない。

 客がくるとピアノの後ろへ隠れて出て来なかったものだが、最近は誰が来ても素知らぬ顔をして平気になった。

 片一方の耳は不妊手術が終了していることを示すため、花びらのように切り取られている。たまはそれに気が付かない。

 最近コンピューターがあるコーナーの一角にベッドを持ち込み、仮眠を取れるようにした。するとたまは時々そこで人間より先に仮眠を取っている。

 ねこという動物名がどこからきたか調べてはいないが、寝る子でねこになったのではないかと我が家では話している。

 まだ子供だからちょっとしたものを食卓の上に置いておくと、すぐに手で落としてしまうのでうかうかできない。

 二階に寝室があるので、私が先に起きて戸を開けてやると一目散に二階へ上がっていく。やはり腹を空かしているのだろう、餌をくれる人が何しろ優先で、そばへ行きたいらしい。

 二階への階段は曲がっているので途中で見えなくなるがそこまでは0.5秒くらいしか掛からない。何しろ早い。テーブルの上などは助走も付けずにひょいと乗ってしまうのだ。

 たまが来てからもう2年になる。月日の経つのは早い。特に年取ってからは若いころの1週間が1日くらいに思える。だからたまに取っては人生というか猫生というか、その1/8くらいがもう過ぎた形だ。

 野良猫の平均寿命は2,3年と言われているが、それからすると飼い猫の寿命は極めて長い。15,6年を生きる猫はざらにいるだろうから、それに比べると野良猫は過酷な生活を送っているのだろう。

 猫には死の恐怖がないから、それでも良いのだろうが、そうでなければ野良猫は飼ってもらうのに何十倍も努力するだろう。

 だからうちのたまは頭が良いのだ。ずる賢くもあるし、だから長い寿命をもらった。我々とどちらが長生きするか競争するつもりで我々も頑張らなくてはならない。

酒巻 修平

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