アメリカ人とのばか騒ぎ - 超高級レストランのチーズ

 それはニューヨークのFour Seasons’ restaurant という超が付くほど高級なレストランでの出来事だ。

 ある会社の商品をどこかのカタログで見つけた。これはいいと思ってコンタクトを取ると値段と支払い条件を提示して来た。そこでこちらも我が社が唯一の輸入元とせよと反対条件を付けるとOKということで、口頭ではあるがすぐに基本契約が締結された。

 アメリカ人は一度約束をするとその約束を破ることはまずない。そこで先ず少量に対する送金を行ったら、すぐに商品を送ってきた。

 そこで日本で売上を開始するとある会社が自分の会社以外に売るなと言う。まあ試しにやらせてみた。その商品はよっぽど仕事の要求を満たしたと見えて、売れるわ売れるわ1週間に2度も大量の注文を受けた。

 その都度送金をする。資金があまりない我が社は困ったが他の商品の仕入れを一時ストップしながら送金を続け、売上を伸ばした。

 そんなことをしていると向こうは「もう面倒だから一か月に一度纏めて払ってくれ」と要求してきた。渡りに船とはこのことで、この商品はまだ小さかった我が社にとって棚ぼた商品になった。

 儲かったものだから、その会社に売れる商品はもっとないかと、探すため訪問することにした。何らかの事情があるのか、向こうからは訪問日時を指定された。

 その日に行くと会社が見つからない。ビルの門番みたいな人に会社名を言って、場所を教えてもらうと聞くと何とそのビルにあると言う。

 そのビルは80階建ての高層ビルで、その会社はそのうち50階より上を全て事務所として借りていた。見上げるようなビルで私はどうして我が社を総代理店にしたのか不思議だった。

 名前を名乗り部屋に案内されると他の国の代理店の人なのか、数人の人がすでに待機していた。待たされる間もなく会社の担当者が出て来て皆を紹介してくれた。

 「This is Mr.Sakamaki representing for Japan.」「This is from Germany, this is from England」などと紹介が終わって今年の商品開発の計画などを説明された。

 やがて6時ころになり、会社の担当者は「Company pays dinner, but alcohol is on you」とか何とか言った。はっきりしている。食事は会社持ちだけれど、アルコールはそれぞれ払えよと宣言するようだ。勿論食事と一緒に飲むアルコールは会社が払う。

 それで5人でわいわいがやがや歩きながら近所のレストランに言った。彼らの会話は当時の私の英語力では聞き取り難い。黙って付いてゆくと、そこはFour seasons’ restaurantとあって、説明によると大統領クラスの人も来るらしい。

 即ち我々賓客に最大のサービスをしているという訳だ。入って席に付くとウエーターはほぼ全員イタリア人で、気さくな感じだが、日本の高級レストランと違って、ウエーターも客と同格のような顔をしている。

 面白いなと思って、注文を取りに来たウエーターに5ドルチップをやると勿論喜んだが、連れはおやっという顔をする。通常チップは最後に渡すのだが、そんなことは私の勝手だ。何かするごとにチップを5ドルやった。これが後の誤解の元だった。

 まずチーズが出て来たのには驚いた。私は連れがフォークで取り分けるのだと思って見ていたが、誰も動かない。私は腹が減っていたし、美味しそうなチーズが目の前にあるものだから、「これ食べてもいいか」と聞いた。

 連れはいいよと言うもののやはり怪訝な顔をしている。そのころ日本文化はアメリカでまだ良く理解されていなかったので、怪訝な顔はその一環かと思い、チーズを食べた始めた。しかし誰もフォークやナイフを取らない。

 量は私一人では食べきれないほどあった。それでも食べ進めるとだんだん少なくなってきて、私は心配になってまた聞いた。「本当に私が食べていいの」「いいよ」とやり取りがあり、私は到頭全部食べてしまった。

 さすが高級レストランだけあって、そのチーズは柔らかく美味しかった。しかいなかなか料理は出てこない。私は「Medium rare」のステーキを注文していた。多分全員の分が一度に運ばれてくるのだと、また減ってきた腹が鳴らないよう我慢していた。

 そのうちパンが運ばれてくる。フランスパンのようだ。そう言えばここはフランスレストランだったなとフランスパンを食べようとした。ところがフランスレストランだというのにバターがない。

 私はフランスパンにバターを付けて食べるのが大好きだ。暫く待っていたがバターは一向に来ない。仕方なく、隣に座ったドイツ人に聞いてみた。「When does a butter come?」そういうと私の顔を穴が開くほど見て大笑いを始めた。

 「お前はバターを全部食べてしまったではないか」。私はえっと言ってきり次の言葉が出ない。「Was it butter?」私の言葉を聞いた全員は笑いころげた。

 曰くバターをあんなに食べるのが日本の習慣だと思っていた。そうするとお前はあれをチーズと間違えて食べてしまったのか。ドイツ人は私の考えと行動を即座に解釈して大笑いをしたのだと思えた。

 それから5人は私を中心にニューヨークの飲み屋を探して歩き回った。時々日本の習慣や文化について聞いてくる。私は誇張しながら、面白,可笑しく話を聞かせてサービスした。バターを全部食べてしまった罪滅ぼしの積りだった。

 それをカリフォルニアに帰って我が社のバイヤーのブライアンに話してやった。彼は私をアメリカで二番目に面白いと言って男だ。私はサービス精神が旺盛で身振り、手振り、声音を変え、演技しながら1時間に亘ってその場の情景を語った。

 ドイツ人の「You eat it all」とか「Was it butter?」のくだりがクライマックスだ。ドイツ人は目を見開き、私は口をあんぐりと開く。「Youate it all」そこに来るとブライアンは「ひー、ひー。Oh, no、ヒックヒック、うおー」涙が溢れて止まらない。私は休む暇もなく「Was it butter?」と困惑し、うろたえ、顔を隠し、最大限の誇張をして再演ドラマを演じた。この際だからアメリカで一番面白い男になってやろうと頑張った。「ギャハー、うっぷうっぷ、ヒー。ちょっと待て腹が痛い」

私は演技を始めたら止まらない。笑って腹がおかしくなれとばかり演技に熱を込めた。

 どうだ、私がアメリカで一番面白いかと尋ねると彼は「Yes, Today, you beat him」そう思う。今日はお前が彼よりすごいと言いながらクライマックスの部分を再演するようにせがんだ。彼はまた妻にもその話しをしてくれとせがんだが、とうとう機会はこなかった。

 これは私のエピソードの出し物の中でも一番だ。

酒巻 修平

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