社長から見た社員 - 英語が上手い人

私が出た学校は語学を主に教える学校でした。だから英語くらいはできると思われているのですが、私は全く駄目でした。馬鹿野郎と言われそうですが、それが真実だから仕方がありません。

 しかし入社した会社では英語の読み書きくらいはせめて必要だったので、英語も読み書きくらいはしなければなりません。ある日上司(この人は上手な英語を使うことを得意としていた)が私に「うちは大阪にある会社です。貴社と是非とも取引したくてこの手紙を書いています。当社は日本全国に100社ほどの卸売り会社を顧客として持っていますので、貴社の商品は沢山売れると思います」

 そんな趣旨の文章を英語で書けと言われました。全く自信がなかったのですが、入試用の英語を少しは勉強したので、何とかこなそうと努力をしました。作った英語が下記の通りです。

 「We are a company in Osaka. We are writing this letter because we want to import your merchandise to Japan. We have about 100 wholesell customers all over Japan and so we have a confident to sell your merchandise many pieces」

 直訳すると「弊社は大阪にあります。弊社は貴社の商品を日本に輸入したくてこの手紙を書いています。弊社は日本国中に100社くらいの顧客がいますので、貴社の商品を大量に売る自信があります」

そんな英語を長時間掛かって書きました。途中何度もまだかと催促されましたが、何とか書き上げて提出すると、その上司(部長)は大笑いしました。曰く「我が社をweとしたところだけは使えるが、後は全くだめだ。相手は分かるだろうが、下手な英語だと思うだろう。お前の英語の主語は全部weじゃないか。お前はweという単語しかしらないのか。あとyour merchandise many piecesという語順の文法はまったく間違いだ。せめてmany of your merchandisesと書け。wholesell customersも駄目だな」とこてんぱんです。

 上司の模範解答は「This is to show our interest in importing your goods to here. For your information, our sales network was established over Japan. About 100 wholesellers will distribute your merchandises and so you can expect good quantity will be sold in short period of time. Our office is located in Osaka」細かい点は不詳ですが、概略こんなような英語だったと記憶しています。私は部長の英語の上手さに感心しました。

 直訳すると「貴社の商品を日本に輸入したくてこの手紙を書いています。全国に100くらいの顧客のネットワークを持っておりますので、営業活動を始めて短い期間で結構売れると思います。そうそう弊社は大阪にあります」。今考えるとこの英語の文章の良いところは相手と対等に渡り合っていることと、かなり輸入に経験があると相手に思わしているところだと思います。

 それから目を覚ました私は英語を機会あるごとに勉強しました。今は上の部長クラスの英語が何とか書けると思いますが、その努力は聞くも涙語るも涙の物語でした。

 ところで英語ができる社員ですが、この人はまず仕事ができないと思います。何故なら英語という語学に注意が向かい、それが自分を支えている技術になっててるからです。どうしてもその技術に頼り、もっと大切な本当の意味のコミュニケーションはできないし、仕事をする上でどのようなことに留意しなければならないか理解することを怠るからです。

 私が自分の会社を経営するようになってから、もう随分経ったころのことです。英語が非常に上手な女性が派遣で入社してきました。彼女は英語教育がとてもさかんな有名私立大学を卒業していて、英語には相当自信があったようです。プライドも高く、書いた英語を修正しようものなら、柳眉を逆立てて怒りそうなので、何の訂正もせずにアメリカに出していました。しかし私が要求するものとは違うのです。

アメリカに出張したときのことです。例のブライアンとはもう友達になっていたので、彼も私に遠慮がありません。「酒巻、お前の秘書(秘書ではありません)のミス大川は英語がお前より上手だ」と言いながらにやにや笑っています。

私は社員の英語を褒められたものだから、気を良くしていると続けて「英語は上手いけれど何を言っているのか分からない。この文章の意味を教えてくれ」といいながら、ひひひとまだ笑っている。

コミュニケーションは英語力の問題ではありません。言いたいことが正確に伝われば下手な英語でも充分です。こちらが客なのにサービスで英語を書いてやっているのです。いやなら日本語を使えばいいのです。

勿論英語もこなし、仕事もできる人がいますが、そんな人も雇ってはならないでしょう。そんなにできる人はいずれ独立を試み、会社の仕事を奪ってゆくからです。

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 私がときどきコーヒーを飲みに行くファミレスの窓に英語が書いてあります。見ると主語が全部「we」です。私は叱られた昔が懐かしくてしばし物思いにふけります。

酒巻 修平

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